世界が歪み切る前に
部活で書いたものです。かなり手抜きではありますがね。
「暑い…!」
なんて事ぼやいててもまだ正午。地上が一番暑くなるのは一時~二時頃。三時のおやつまでは生きると決めたんだ。死ぬ訳にはいかない。
「くそー、寒い寒い寒い!…駄目か」
天邪鬼になれば熱の感じ方も変わるのではないか。そう思って真逆の事を口走ってみた。だが、全く変わらず。
(てか、こんだけ暑いんだし、真逆になったらなったでめちゃくちゃ寒くなるんじゃ…?)
思いつきで行動を起こすのはやめよう、そう心に誓った。
そもそも、扇風機をつけても全く涼しくならない時点で今年の夏はどうかしている。
「この猛暑なんなんだよ…例年ここまで暑くなってなかったよな?」
地球温暖化というやつが進んでいるのだろうか。そこら辺の知識は生憎持ち合わせていないので分からないが。
…。電話か。今家には俺しか居ないから、必然的に俺が出なければいけない。
セールスとか話の長いお年を召した方(濁し)だったら最悪だ。
「…もしもし。柊です」
「おい!コール三回鳴っただろ!あとでジュース奢れよな!」
なんだ祇園か。…なんで少し遅れただけでジュースを奢るはめになるのか、俺にはさっぱり分からない。
「柊!海行くぞ!」
…は?
「もう朝日奈も秋穂も誘ってる!早く来てくれ!遅れたら罰金1000万円な!」
某ボールに入るモンスターと冒険するゲームの主人公のライバルの有名台詞を使うな。てかいきなり海とか行けるわけ…。
「…あったわ」
徒歩五分、俺の家のすぐ近くにある。何故距離的に遠いあいつが俺を誘うのか。理由はただ一つ、あいつがリーダー気質だからだ。
海岸には人が少ない。あまり人気のビーチスポットじゃないからだろう。
「…誰も居ねぇ」
あいつの瞬足と行動力なら間違いなく歩きで来た俺より速く着いたはず。朝日奈が遅れるのはまぁ、身体が弱いから仕方ないとして…。
秋穂も運動が得意な方ではない。だとすると恐らくあの二人も遅れて来るだろう。
「おい祇園!隠れてるのか?面白くないぞ!」
ムードメーカー的な立ち位置のやつにはこうやって言っておけば何とかなる。
…何故出てこない?…まさか…!
「おっと、柊速いな…どうしたんだ?」
振り返ると秋穂が居た。後ろから朝日奈も着いてきている。頑張ったなぁあいつ。
「あぁ、祇園が居ないんだ」
そうしたら二人共驚いたような顔をした。というか、普通に驚いてたかも…。
「…ねぇ、柊くん」
朝日奈から急に声をかけられたもんだから少々驚いてしまった。
「…なんかあったのか?」
「いや、足元…明らかに違う足跡あるよね」
言われてみればそうだ。
「祇園くんって足大きいじゃん。そしてこの海岸には、柊くんが来るまで誰も居なかった…」
まさか…。
「あー、つまりこの足跡は祇園のものである可能性が高いから、辿っていけば祇園を見つけられるんじゃないか、って事か?朝日奈」
こいつらの推理力はどうなってんだ。
「…まぁ、その線に賭けるしかなさそうだ。行ってみるか」
「ま、待って…」
ん?
「こ、ここまで歩いてきて疲れて…。ごめん柊くん、おぶって」
…よりによって俺か。まあいいけどさ。…こんなこと言うのもあれだが、朝日奈明らかに重くなってるよな…いや、女子にこんな事言うもんじゃないな。口に出さなくて正解だった。
「…なぁ、この海岸ってこんなに長かったか?俺の記憶が正しければ、かなり小規模だったはずだが」
かれこれ30分は歩いている気がする。
「それは俺も思ってた。しかも天候も不安定だ。雨降ったり急に晴れたり…」
秋穂も勘づいていたようだ。
「ねぇ、もう…限界…」
朝日奈も最早満身創痍だ。早く祇園を探さないと。
「うっ…!」
空に暗雲が立ち込めたその瞬間、吐き気、目眩、熱中症の3つが同時に起こったかのような感覚に遭い、気を失ってしまった。2人の声が遠のく。目が…。
「…ここは何処だ?」
目が覚めたら、見知らぬ駅のホームに居た。どこかで来た記憶があるような…それも嫌な。
妙に暗いな…ここ。異界に迷い込んだか?俺。なんか駅の文字も良く読めないし。
「とりあえず中に入るか…。って、」
中に入った瞬間、驚くべき光景が広がっていた。足を切られた俺の死体が転がっていたのだ。
「ま、まさか…俺、死んだのか…?」
これは夢だ。こんなしょうもない理由で死ぬ訳がないだろう。そう自分に言い聞かせ、ホームを後にした。
…さっきの死体、俺の中学ぐらいの頃と酷似してたな。いや、今は成人してるんだし、大丈夫だろう。多分。あれは俺じゃない。うん、忘れよう。
「…居ないな」
祇園の姿が見えない。あいつどこいったんだ?
「…」
後ろから声が聞こえた気がする。掠れてて上手く聞き取れなかったが。
「ひい…らぎ…」
祇園か!?と思い、後ろを振り返ると祇園がそこに居た。
「馬鹿!心配させやが…って…え?」
おかしい、今俺は祇園に向かっていったはず。何故後ろに居る?
「…すまん、柊。6年前、あんなことが無かったら…!」
話がさっぱり分からない。
「…落ち着いて聞け、柊。お前は6年前、この異界駅で死んだ」
…は?
「俺らでプチ旅行に行ったの、覚えてるよな?そん時、あまりにも夜遅かったから全員寝てしまってな…そして4人とも、この異界駅に着いてしまった」
…。
「俺らは何とか逃げきれたんだ。でも柊、6年前のお前はそこで逃げ遅れて…!」
「ふざけんな!証拠がないだろ!」
「じゃあ、何で足が消えかかってるんだよ!」
祇園が泣きじゃくって証拠を突きつける。現に、今の俺には足がない。その事実を受け入れた瞬間、身体が光となって散っていくのが分かった。
「…すまない」
「…いいよ。だって俺は死んでたのに、6年間もお前らに付き纏ってたんだろ?むしろお釣りが帰ってくるレベルだぜ?」
笑顔で受け答える。別れに涙はいらない。
「じゃあな、祇園」
「…あぁ、またな。柊」
その瞬間、祇園の身体が転送されたかのように消えていった。その少し後、俺の身体は光となって消えた。
「…あれから10年か」
「長いもんだね。10年って」
「俺らも三十路だぜ…」
あの件から実に10年。だが、誰も柊の事を忘れてはいない。
「私たちが忘れちゃったら、柊くんはもう1回死んじゃうからね〜…」
「またどこかで巡り会えるさ。…来世辺りで」
「確証無いな…w」
「うるせぇな!」
秋穂に笑われる。でも、きっとどこかで会えると信じている。
蝉の鳴き声が大きくなった気がした。
とりあえず、夏がテーマだったので海とか蝉とかの夏の風物詩出してみました。怪談入れるのもいいなと思い、都市伝説から、有名な異界駅である「きさらぎ駅」を出してみました。家庭の事情により、しばらく投稿が途絶えます。そのうち帰ってきます。