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学園、青春

吸血鬼にブラッディ・パイを

作者: 山岡希代美



 この間学園祭があったばかりなのに、今度はハロウィンパーティとか、うちの学校ってどんだけお祭り好きなの。めんどくさい。


 って去年までは思ってた。


 でも今年は違う。こういうイベントって彼氏がいると、もう全然違うんだよね。


 去年は適当に縫い合わせた布をかぶってオバケとかやってたけど、仮装にも力が入っちゃう。


 フリフリのメイド服に黒い猫耳としっぽをつけて、かわいい使い魔の黒猫に仮装した。


 仮装は完璧。でも気分はいまひとつ。


 たぶんこれ、笑われるだろうな。

 私は手にした紙袋をそっと開いて、中を覗く。盛大なため息と共に、袋の口をまた閉じた。


 校門の前では吸血鬼に仮装した彼が、不機嫌そうな表情で仁王立ちしていた。


「遅い。なにやってんだよ」

「ごめん」


 さっさと行こうとする彼の腕を掴まえて引き留める。

 怪訝な表情で振り返る彼を、少しの間黙って見上げた。

 どうせ笑われるなら、イヤなことは先にすませてしまおう。

 私は意を決して口を開いた。


「ハロウィンの呪文を唱えて」

「は? トリック・オア・トリート?」

「はい! お菓子!」


 素早く袋から取り出したパイを彼の前に突き出す。

 一目見るなり、彼は吹きだした。


「すっげー、ど迫力!」


 カボチャは嫌いだって言うから、アップルパイにしようと思ったんだけど、りんごを煮詰めるのに失敗して焦がしたからイチゴジャムで代用したのだ。


 そしたらハロウィンのカボチャのつもりでパイ生地に空けた穴からジャムがあふれて、目や口から血を滴らせてるみたいで、思いもよらないホラーなパイになってしまった。


 想像はしてたけど、やっぱり笑われるとキツい。


 うつむく私の頭をポンポンとして、彼は平然と言う。


「でも味は意外といけるよ」

「え、ホント?」


 顔を上げると彼がホラーなパイをかじっていた。


「なんだ、自分で食ってないの?」

「失敗しちゃって、これしか残ってなかったの」

「じゃあ、食ってみる?」


 かじりかけのパイが私の目の前に差し出される。

 えーと。これって間接キスでは?


 ちょっとどきどきしながら、差し出されたパイを一口かじる。


「あ、ホントだ。おいしい」


 自分でも意外。

 すると彼がまた吹きだした。え、なに?


「おまえの口がホラーになってる」


 そう言って私の口元についたジャムを指先でぬぐい、その指をぺろりとなめた。


 吸血鬼が瞳に怪しい光をたたえて、にやりと笑う。


「続きはまたあとでな。今日の俺は吸血鬼だから、血を見せたおまえが悪い」



Copyright (c) 2015 - CurrentYear Kiyomi Yamaoka All rights reserved.



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