僕の彼女は世界一可愛い♡
♡♡♡♡♡♡
「はいタクミ君。バレンタインのチョコレート♡」
僕には可愛い彼女がいる♡
名前は花崎恵♡
赤いカチューシャのよく似合う黒いセミロングに、やや童顔寄りな「美人」いうよりは「可愛い」という言葉に相応しい顔つき♡
言うまでもなく、僕にとってこれほどまでにドストライクな外見の女の子は世界中のどこを探しても、恵の他にいない♡
恵とは小さい頃から一緒に過ごしたいわゆる幼馴染というやつで、高校生から付き合い始めた♡
外見だけでなく、恵は昔から朝起こしてくれたり、弁当を作ってくれたりと、何かと僕の世話を焼いてくれる♡
「いつもありがとう♡恵♡」
「いいのよ♡」
「恵♡」
「タクミ君♡」
ご覧の通り、現在ではバカップル丸出しである♡
「じゃあね♡また明日♡」
「うん♡また学校で♡」
恵と別れ、チョコレートの箱を開ける♡
「わあ、美味しそう♡」
ハート型のチョコレートが、箱いっぱいに詰まっていた♡
そのチョコレートの一つ一つに『恵』という文字が刻まれていて、彼女からの深い愛情を感じずにはいられない♡
さっそく、一つ摘んで口に放り込む♡
「うん。美味しい〜♡」
甘くてとろけるような、恵の優しさが詰まったような味だった♡
ドンッ!
幸せを堪能していたせいで、前に人が歩いていることに気付かず、ぶつかってしまった♡いけないいけない♡
「あ、すみませ……」
「痛ってぇえええええっ!!あばら骨と肋骨と頭蓋骨が同時に折れたぁあああっ!!」
慌てて謝罪の言葉を口にしようとすると、ぶつかった男はとんでもないオーバーリアクションで倒れて身悶える。
「やべぇ、これ医者行かないと、確実に死ぬやつだわ」
「えー?どうしよう、これはキミに医療費を出してもらうしかないなあ」
もう一人の男が、棒読みで俺に詰め寄ってくる。
わざわざ言うまでもない。典型的なカツアゲというやつだ。
「ほら、病院に行くから医療費の3万円、出しなよ」
「そ、そんな……今待ち合わせが」
「んだとお?テメェ舐めてんのかぁっ!?」
痛がっていた男が立ち上がり、払えないと分かった途端に豹変して俺の胸ぐらを掴み上げる。
「は、離せっ!!」
パァアアアアアアンッ!!
俺としては、ほんの軽く男の顔を払ったつもりだった。
だが、俺の手が男の顔に触れた瞬間、男の顔はまるで風船のように破裂し、辺り一面に脳漿が飛び散る。
頭部を失った男は、血を噴き出しながら仰向けに倒れる。
「え……?」
「う、うわぁあ……ば、化け物!?」
逃げようとするもう一人の男の頭部を、すぐさま掴み上げる。
「諸君、カツアゲをしてはいけない。でないと僕たちのように……ひぎゃっ!」
ほんの少し力を入れただけで、トマトのように男の顔は弾け飛んだ。
「どうなっている……?」
すぐそばのコンクリートの壁に触れると、まるで砂のようにボロボロと崩れていく。
間違いない、さっきの男たちやコンクリートが柔らかいのではなく、俺の怪力がとんでもないことになっているのだ。
「どうしてこんな……それに、ここは?」
あたりを見渡す。
いつもの通学路だ。夕日は今にも沈もうとしている。
血塗れの腕時計を拭い、時間を確認する。
16時30分。
既に学校が終わっている時間だ。
「そんな……何故……」
授業を受けた記憶どころではない。
今朝起きて意識を失ったかと思えば、次の瞬間にはさっき殺した2人組に絡まれていたのだ。
「それにこれは、チョコレート……か?」
箱を開けると、ハート型のチョコレートが詰まっていた。
そして、その一つ一つには『恵』という文字が刻まれていた。
「……恵?誰だ?」
ドクンッ!
心臓が大きく高鳴る。
何度も何度も、幾度となく。
もはや、訳が分からない。
どうして自分がここにいるのか、これまでの記憶がないのか。
「俺は……気が狂ったのか?」
心臓はバクバクと振動し、誰かが俺を呼んでいる感覚が全身に襲う。
居ても立ってもおられず、よろよろとした不安定な足取りで走る。
自分の体が、自分の体でないように、まるで何者かに操られているかのように足は走り、そのまま公園に辿り着いた。
「早いわね。もう洗脳が解けたなんて」
聞き覚えのない女性の声が耳に届き、我に帰った俺は顔をあげる。
「だ、誰だ!?」
その先にいたのは、公園のブランコに腰掛ける黒セミロングの少女だった。
夕日に照らされてよく顔は見えないが、少女はこちらを見据えるとゆっくり立ち上がる。
「誰って……愛しの恵じゃない」
「恵……?」
そうだ、と思い出して『恵』と文字の入った手元のチョコレートを見る。
「これは、お前が作ったのか……?」
「本当に何も覚えていないのね。けど、そうね。『今のあなた』はみんな忘れちゃっているもんね」
ゆらりとこちらに歩み寄ってくる少女。先程までは良く見えなかった顔つきが見えてくる。
とても可愛らしい顔だ。
だが、それでいて作り物のような不気味さや歪さがあり、近づいてくるたびに体が小刻みに震え出し、本能的に恐怖を訴えかけてくる。
「お前は……何者なんだ……」
見た目はどこからどう見ても人間なのに、どうあっても拭い去ることの出来ない『異物』を見ているような感覚。
「そうよ、私は地球とは別の惑星からやってきた宇宙人。ここに来て、あなたに一目惚れした私は、何としてもあなたを私のものにすべく、洗脳をかけた」
「せ、洗脳……!?」
「あなたにとって世界一可愛いと思える女の子の姿に変身し、私とあなたが長い間ずっと過ごしてきた幼馴染であるように思い込ませる洗脳よ」
そう言うと彼女の整った顔と全身の皮膚がひび割れ、べりべりと剥がれていく。
「う、うわぁああ……!!」
次の瞬間には、少女の姿は無数の目玉と口で形成された真っ黒な化け物となる。
「驚いた?これが私の本当の姿よ。そうよね、私がいくらあなたを愛していても、こんなおぞましい化け物を愛したりはしないわよね」
全身についたいくつもの目は、蕩けるような眼差しで、俺を見つめる。
「初めて洗脳した時は、1ヶ月くらい続いたんだけど、何度も洗脳をかけるうちに、あなたは耐性ができて、その日のうちに洗脳が解けるようになってしまったの。だから……」
ずぶりと怪物の体から触手のような手が伸び、チョコレートを指さす。
「あなたに渡したチョコレートに、私の血液を混ぜたの。あなたも私と同じ怪物となり、永遠に愛し合えるようにね」
「俺が……怪物だと?」
自分の手を見る。
俺の肌は徐々に黒ずんでいき、あの怪物と同じ目玉がいくつもいくつも出てくる。
「ああぁ……なんだこれは……た、助け……」
「そして、もう2度と解けることのない洗脳にかかり、あなたは一生私の物として生きるのよ。愛してるわ。タクミ君」
「やめろ。来るな化け物!!」
チョコレートの箱を投げつけるが、怪物の体に当たるとずぶりと吸い込まれてしまう。
「た、助け……!」
背を向けて走る。
だが、背後にいるはずの怪物は、すぐに眼前の地面から湧いて出てくる。
「逃げても無駄よ。あなたに私の居場所が分かるように、私にも分かるもの」
「ひ、ひぃい……!」
「怖がることはないわ。大好きよタクミ君。洗脳を受けなさい。それっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
怪物は再び女の子の姿に変身すると、逃がすまいと両肩を掴み、目を妖しく光らせる。
「♡♡♡♡♡♡♡っ!!!」
その途端、頭の中をめちゃくちゃに掻き乱されるような感覚が走り抜ける。
「あっ……ああああ……!!!♡」
これまでの自分の記憶に、なにかの異物が侵食していき、それによって全体が支配されていく……。
「ふふふ、タクミ君。今あったことは全て忘れるの。あなたの前にいるのは、世界一可愛い幼馴染、恵だよ♡」
俺の前……俺……?
恵……?
恵って誰だ……?♡
そう、恵は俺……僕の幼馴染で……♡
そうそう♡恵のチョコを食べて……あとは、えーっと……♡
「大丈夫?♡タクミ君?♡」
「はっ♡」
僕が顔を上げると、目の前にはいつ見ても可愛らしくて、まるで僕の理想を思い描いたかのような幼馴染、花崎恵の姿があった♡
「大丈夫だよ♡僕のことを心配してくれるなんて、優しいんだね♡」
赤いカチューシャのよく似合う黒いセミロングに、やや童顔寄りな「美人」いうよりは「可愛い」という言葉に相応しい顔つき♡
言うまでもなく、僕にとってこれほどまでにドストライクな外見の女の子は世界中のどこを探しても、恵の他にいない♡
そんな恵は、いつの間にか僕の肩に手を置いて心配そうに見つめていた♡
「もちろんよ♡頭痛くない?♡」
言われてみれば、少し頭がズキズキするような気がする♡
でも、恵の可愛らしい笑みを見ているだけで、それも吹っ飛んでしまった♡
「怖い夢を見てしまったよ……♡」
「あら?どんな夢?♡」
「君のことをすっかり忘れてしまう夢だよ♡とんでもない悪夢だった♡」
「そう……夢、夢なのよね?♡」
「うん♡僕が恵のことを忘れるわけないじゃないか♡」
「よかった♡」
愛しの恵とぎゅっと手を繋ぎ、公園を出る♡
すっかり日は沈み、空は薄暗くなっていた♡
「ねぇ、タクミ君♡」
「どうしたの?♡」
「これからも、ずっと一緒にいてくれる?♡」
彼女は上目遣いで僕を見つめてくる♡
もう♡本当に可愛いんだから♡そんな顔で見られたら、断れるはずがないじゃないか♡
「もちろん♡ずーっと一緒だよ♡」
♡♡♡♡♡♡♡
♡HappyEnd♡
♡♡♡♡♡♡♡
♡♡♡♡♡♡♡