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 その晩、僕ことフィルは少々不機嫌になりながら魔法学校を訪れていた。


(全く、今日のセシリーはなんなんだ)


 ナディーヌ様の占いを信じて俺に女遊びをやめるよう説得してきて、理由を尋ねたら、仕事仲間として必要だからときたものだ。


 ちなみにその言葉が嘘であることくらい悟っている。そもそも彼女は嘘がへたくそなのだ。本当はどう思っているかも、これまた長年のつきあいだからこそ分かる。


(どうせ、『お姉ちゃんとして』俺のことを心配しているんだ)


 本当に小さい頃、まだ声変わりもしていないときはセシリーのことを姉と思って遊んでいた。当時は俺の方が身長が小さかったし、彼女の方が先に孤児院にいたので、セシリーを姉と呼ぶのは自然な流れだった。


 だが、よくよく考えればセシリーも自分も孤児なわけで、実際にどちらが年上か年下かも明確ではないのだ。


 だというのに、セシリーは事あるごとに俺の姉として振る舞う。未だにサンタクロースを信じているくせに、あんな程度の接触であたふたしているくせに。


(……ああいうところが無性に腹が立つ)


 ……もうセシリーのことを考えるのはやめておこう。


(とにかく今日を楽しむことだけを考えよう。今日の舞踏会の会場は国立魔法学校だしね。気合い入れないと)


 頬を軽く叩いて、僕は舞踏会の会場へと入る。


 さすが国立の学校だけあって、会場は豪華な雰囲気をしていた。上品に輝くシャンデリアは人々の目を引き、暖かい色合いの絨毯は靴の上からでも分かるほどにふわふわしている。花瓶やツボなどの飾り物も、国内外で名声を誇る匠の品ばかりが揃っていた。


 来ている人たちもかなりの身分の人たちばかりだ。女性も男性も髪は丁寧に整えられていて、服も宝飾品も豪華で美しいものを身に着けている。

 しかし、皆が皆おかしな共通点があった。なぜかみんな頭に仮面をつけているのだ。


(それにしても、中々面白い舞踏会だな。半仮面舞踏会……?)


 この国最大の祭り<灯ノ祭>で子供たちは仮面をつけなくてはならない決まりがあるため、そこらへんが関係しているのだろうけど、大の大人がこうして仮面をつけていると不思議なものだ。


(これはいい話のネタになるな。うんうん、来てよかった)


 正直いうと、この舞踏会に来るかどうか結構悩んでいた。なんだって、ここに来る人達と僕では身分の差が大きすぎる。僕の正体がただの使用人だとばれてしまえば、どんな目で見られるか分かったものじゃない。


 とはいえ、もしかしたら運命的な出会いが出来るかもな、なんて軽いノリで来てみたのだ。どうせ招待券をもらったのだ。使わない手はない。

 

(さてさて、パーティーを楽しむ前に、招待してくれた彼女にあいさつあいさつっと)


 彼女の姿はすぐ分かった。青一色のローブを身にまとい、腰まで届く真っ白な髪はツヤツヤとなめらかに流れている。細目から覗く紺色の瞳は、大人の落ち着きと品のよさをにじみだしていた。


 僕は近づいて、彼女に挨拶をする。


「お久しぶりです。お誘いいただきましてありがとうございます」


 彼女は僕の顔を見ると、にっこりと微笑んだ。


「いえいえ。ちょうど余っていただけですから。我が学園へようこそ。ここに来るのは初めてでしたよね? どうでしょうか」

「仮面舞踏会っていうインパクトで全部持ってかれちゃった感じあります」

「分かりますよ。この舞踏会は特殊ですものね。それで、もう見つけられましたか?」

「? なにをですか?」

「私の次の犠牲者ちゃんのことですよ」

「……うーん。言い方が悪いですね」

「あら、そうですか? ともかく、あまり女の子を泣かせてはいけませんよ。それでは」


 彼女はくすくすと笑って、どこかへいってしまった。


(……やっぱり怖いなあ)


 今では友人として親しくしているが、ほんの少し前は僕と彼女は恋人同士だった。しかしその関係はものの見事に崩れ去った。


 『私はあなたのことを愛している。だけど、あなたは私のことを愛してくれない』


 そう言って、彼女は悲しげにほほ笑んでいたのを思い出す。


(いや……。彼女だけじゃないか)


 付き合っていた彼女たちはそういって僕の元を離れていった。それを知っているからこそ、彼女は僕の新しい恋人を犠牲者と例えるのだろう。

 

(……もうよそう。考えるのは)


 とにもかくにも、いいひとがいたら話しかけてみて、無理そうならさっさと諦めて料理の調査でもしよう。新しいメニューを考えつけるかもしれないし。


 そう思い、料理の方へ足を向けようとする。が、しかし。


「……ん?」


 何やら入り口付近が騒がしい。ほんの些細な好奇心から近づいてみると、一人の女性の姿が目に入った。

 途端、俺は息をのんだだ。


(あれは……すごい美女だな)


 さらさらの金髪に、若々しい青の瞳、陶器のように白くつやつやした美しい肌はシミ一つもない。着ているドレスはクリーム色のワンピースと簡素ながら、それすらも彼女の清楚な雰囲気を際立たせている。胸元に輝く大きなエメラルドにもひけをとっていない。


 だが、たった一つだけの違和感があった。彼女の頭についている仮面だ。それだけは彼女に合わなかった。鳥の仮面にみえるが、子供用のようでいびつに小さい。昔購入したのか、適当な露店で買った粗悪品か、その両方か。どちらにしてもボロボロの見た目だった。


 しかしその欠点を覆い隠してしまうほどに彼女は美しかった。


 そう、美しすぎるとでも言ってしまうほどに。


(トラブルの元になりそうだな……)

 

 そもそも美人というだけで注目をうけるというのに、彼女はあまりに無防備すぎて隙が多すぎる。あれでは男たちのいい標的になるだろうし、女性からは嫉妬の目をおしみなく向けられてしまいかねない。


 それでもお近づきになりたい男はいるのであろうが、自分としてはハイリスクな選択をとりたいとは思わない。

 なので、俺は心に決めた。


(よし、彼女には近づかないでおこう)


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