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 失礼なドラゴン仮面の過失で壊されてしまった、大切な鳥の仮面だった。


 小さな形も、ちょっぴりおんぼろなところも、全てが元通りになっている。


 それもそれでびっくりしていたけど、それよりも、彼女の手にこの仮面があったことのほうが驚いていた。


「どうしてこれをお持ちなんですか」


 確かそれは、フィルに預かってもらっていたもののはず。


 戸惑っていると、青ローブの女性は少し申し訳なさげに、はにかんだ。

「その通りです。私が持っているのは他でもない、この仮面を修理したのが私だったからですよ」

「えっ!? そうなんですか」


(そういえば、壊れた仮面をフィルに預けたとき、『直せそうなひとを知っているから、その人に頼む』っていっていた気がする)


 気がするが、普通元カノには頼まないでしょうに!


「わざわざすみませんっ!フィルが無理言ったのではないですかっ!?」


 慌てて謝罪するも、青ローブさんはのんびりと「いえいえ、別に気にしていませんよ」と答えた。


「そもそも、仮面が壊れてしまったことについては、私にも責任がありますし」

「責任……?」

「ええ、実はですね、」


 青ローブの彼女は申し訳なさそうに肩をすくねる。


「セシリーさんの仮面を壊したドラゴン仮面の少年ですが、じつは、私の弟なのです」

「「え、ええ!!!???」」


 これには私もエマ様も驚いてしまった。


「セシリー様に嫌がらせをした、あの偉そうな男が、ですか!?」


 そう言われてみれば、雰囲気がなんとなく似ているような、似ていないような……。


 頭を捻っていると、青ローブさんは顔を伏せる。


「あの子、魔法学園の成績が落ちてしまったショックで、最近荒れていたのです。問題を起こすたびにきつい罰を与えていたのですが、全く反省しなかったみたいですね……」


 彼女は深々と頭を下げます。


「家族として、兄弟として、これまで以上に厳しく指導いたします。本当に申し訳ありません」


 青ローブの彼女は、きれいに頭を下げて謝罪をしてくれる。


 その姿からは、私に対しての謝罪の気持ちと同時に、どうしてあの子がこんなことをしてしまったのかという困惑の思いを感じとった。


「……」


 そんな彼女の姿に、昔の自分の姿が重なった。


「……あの、魔法使い様」

「なんでしょうか。お叱りなら、いくらでもお聞きします」

「いえ、そうではありません。……もう少し、弟さんと話し合ってみてはいかがですか?」

「弟と、ですか?」


 青ローブさんは戸惑いの表情を浮かべる。ついでにいうと、エマ様もキョトンとしている。


 自分でも、変なアドバイスをしてしまっているとは分かっている。


 だけど、ついついお節介を焼きたくなってしまった。


「そのー、実は私、フィルと幼馴染みの関係だったんです」

「幼馴染み……。もしかして、彼と一緒の孤児院にいらっしゃったのですか」

「ええ。赤ん坊の頃からずっと一緒でした。ですので、私は彼のことを全て分かっていると思い込んでいました」


 自分はフィルのことを誰よりも知っていると思っていた。


「……けど、付き合いはじめて、それが違うと気づけたのです」


 フィルの優しさも、かっこよさも私は知らなかった。


 だからきっと。


「……もしかしたら、あなたも弟さんのことで知らないことがたくさんあるのかもしれません。ですから、一度話し合ってみたらいいのかな、と思いまして……。ただのお節介ですけどね」

「……そう、ですね」


 青ローブの女性はしばし考えて、小さく頷く。


「弟がどうしてそういう問題を起してしまったのか、もしかして教え方が間違っていたのかと思っていました。ですけど、そうですよね。彼も彼なりに悩んで、あんなことをしてしまったのかもしれませんね」


 彼女はほほ笑む。


「ありがとうございます。……私、あなたを誤解していたかもしれません」

「え?」

「昔の私は、フィルさんが隠していた本心に動揺して、ついつい別れを切り出してしまいました。あなたも、そうなると思っていました。ですけど、酷いことをした私の弟を気遣うあなたなら、もしかしたら」


 彼女は寂しそうに、しかし嬉しそうに言う。

「フィルさんに本当の恋を伝えられるかもしれませんね」

「……」


 私は、思わず口を閉ざす。


(そっか、この人は、知らないんだ)


 私がフィルと別れたことを。

 恋を伝えるなんてことができなかったことを……。


 無言の私を、一種の照れ隠しと誤解したのだろう。青ローブの彼女はにこりと笑って一礼すると、人混みの中に消えていった。


 エマ様は伺う様に私を見上げる。


「セシリー様……」

「……大丈夫ですよ、エマ様。それにしても、仮面を直してくれるなんて、あの人は実はいい人なのかもしれませんね!」


 声のトーンを上げて喜んでみせると、エマ様はほっと安心したように笑う。


「そうですね! セシリー様の手に戻れて、仮面も喜んでおられると思いますよ」

「そうだといいですね」


 仮面を手でなぞる。古臭くて、小さな仮面だけど、戻ってきてくれてよかった。


「それにしても、付き合い始めたときに仮面が壊れて、別れた後に戻ってくるなんて、因縁を感じますね」


 そのまま持っていても壊れてしまいそうなので、仮面を頭につける。妙にしっくりくる気がするのは気のせいか、それとも小さなころの記憶でも蘇ってきているのかもしれない。


 エマ様は羨ましそうに仮面を眺める。


「わたくしもどこかで仮面を買いたいです。セシリー様とお揃いがいいです」

「私のと? うーん、小さいときはこれから行く灯ノ花のオブジェ付近でもらったけど、今でもあるかしら」

「ちょっと見てきましょ! もしなかったらなかったで、似たようなものを買いますから! あ、でもウサギの仮面でもいいなあ。どう思う? ビっちゃん」

『……どーでもいい』


 ビっちゃんはあくび交じりに答えて、またすやすやと寝息をたてる。


「もう、ビっちゃんったら。仕方ありませんね。見てみてからきめます。さあさあ、行きましょ!」

「ええ!」


 エマ様は至極楽しそうに振る舞ってくれる。


 きっと、私を慰めようとしてくれているのだ。


(……ありがとう、エマ様)


 もし、私が一人きりだったら、ボロボロと涙を流してしまっていた。


 ほんのりこぼれた涙をぬぐい、私はエマ様のあとをおった。


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