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 太陽の余韻を残していた空は徐々に黒く染まっていき、本格的な夜が訪れる。


 ランタンの光のせいか、それとも楽しげな人の声でごった返しているせいか、いつも通る商店街だというのに、知らない場所に来たかのように思える。


(お祭りっていうのは、やっぱり夜に行かなくちゃ良さが分からないわよね)


 ランタンの灯が目立つ頃になると、店を見るだけでもワクワクが止まらない。


 私でさえこんな気持ちなのだ、エマ様もうっとりと目を細める。


「綺麗ですね。なんだかロマンチックです」

「ですねえ。年々綺麗になっていっている気がします」


 なんて会話をして歩いていると、子どもたちが楽しそうに横をかけていった。仮面をつけた子供たちは、ハートキャンディーとおおきな綿あめを持っていた。


「ああ、そういえば綿あめを買っておかないと。……ついでにハートキャンディーも買っちゃおうかしら」

 エマ様も気づいたようで、彼らを目で追う。


「お姉さまへのお土産を買って、そろそろ帰りましょうか。セシリー様も大分お疲れの様ですし」

「……えっと、」


 あまり無理をするなとナディーヌ様に念を押されている手前、できるだけ早く帰った方がいいのだろう。


 だけど、私は首を横に振った。


「少し公園に行ってみてもいいですか? 見てみたいものがあるんです」


 エマ様に連れてもらって、私は国立公園の中央広場に来ていた。さすが灯ノ祭メイン会場だけあって、老若男女問わず、たくさんの人で賑わっている。


 そんな彼らを照らすのは、形や大きさ、灯される火の色まで様々なランタンたちだ。


 光を入れると伝説の精霊トモシビの影が浮かび上がるランタンや、中の灯が小さな火花のようにパチパチと音を鳴らすランタン、妙に大きなランタンなどなど、種々様々なものが揃っている。


 その上、色鮮やかな屋台の屋根まで加わって、まるでおもちゃ箱の中のようだ。


「すごい……。賑やかですね」

「ですね! 見てて飽きません!」


 私は驚きから、エマ様は興奮から目を真ん丸にさせる。


 人込みに入ったら入ったで、美味しそうな食べ物や綺麗なアクセサリーで溢れていて、ついつい目移りしてしまう。お肉の焼けるいい香りや砂糖の焦げる甘い香りも漂ってきて、小腹もちょっぴりすいてくる。


「エマ様、何か食べたいものでもありますか」

「そうですねえ! 全部食べたいです!」


 なんてキョロキョロと見渡していたエマ様、しかし、何かを見つけて彼女は目を大きく開いた。


「あ、あの人は……!」

「え? どうなさいましたか?」


 エマ様のお知り合いでもいらっしゃったのかとそちらを見て、思わす叫んだ。


「ふぃ、フィルの元カノさん……!」


 そこにいたのは、青の長袖ローブを身にまとう魔法使いだった。


 雪のように白い長髪をもち、紺の瞳は気品をも感じられる。


 一度みたら忘れないであろう美しい女性、特に私にとっては絶対に忘れられない人だった。


 向こうも私をみると、にっこりと微笑みかけてきた。


「あら、お久しぶりですね。パンケーキ屋さん以来かしら」

「……え?」


 確かにパンケーキ屋さん以来ではある。ではあるが、あのときの私はリリーで、セシリーの時ではなかったはず。


 ぽかんとしていると、彼女はくすりと笑った。


「そんなにびっくりなさらないで。あなたの本当のお顔がそちらだと分かっておりますから」

「「え!?」」


 声を上げたのは私だけではない。エマ様も驚いたように叫んでいた。


「い、一体どうして分かったのですか!」

「そうですね。その話と、あとお渡ししたいものもありますし、少し移動しましょうか。通行の妨げになっていますし」


 彼女の言う通り、通行人たちは迷惑だと言わんばかりの目で睨んでいた。


 周りの人にペコペコと会釈をしつつ、私とエマ様、そして青ローブの魔法使いさんはメイン通りから少し外れた、それなりに長い階段近くへと行く。


 真ん中こそ人が通ってはいるものの、階段の脇には座って食事をする人たちがひと時の休息を楽しんでいた。 


「ここならあなたたちと落ち着いて話せますわね」


 青ローブの魔法使いはにこりと笑う。


「まずは小さな魔法使い様からの質問にお答えしましょうか。たしか、変装魔法を見破った理由をお聞きしたいのでしたよね」

「ええ! ぜひ、教えていただければ! も、もしかして、わたくしの魔法が不完全だったから分かったのですか……?」


 少し落ち込んでしまうエマ様だったが、彼女はあっさりと否定する。


「いえ、違いますよ。むしろ、あなた様の魔法は完成度がかなり高いものでした。ですけど、変装魔法だけですと魔法に長けている者ならだれでも見破れますよ。魔法使いに見破られないようにするには、また別の魔法を重ねてかけなくてはいけません」

「そ、そうだったんですか。そういう魔法もあったとは……」

「ふふっ、最終学年には教えてもらえますよ。その時になったら、注意事項から何まで丁寧にお伝えします。それまでに私が教師を続けていたら、ですけど」

「はいっ! わたくしも、あなた様に教えていただきたいです!」


 エマ様は尊敬の眼差しで彼女を見つめる。はた目から見ると微笑ましい光景だ。


 だけど、フィルの元カノだという印象が強すぎて、正直私は複雑な気持ちを抱いてしまっている。

 そんな様子を見抜いたかどうかは分からないが、彼女は私の方を向いて、眉を八の字にさせる。


「それで、えっと、リリーさん」

「……セシリーで大丈夫ですよ」

「それではセシリーさん。私、あなたと初めてあったとき、急に声をかけてしまいましたよね? フィルさんへの忠告をしたかったのもありましたけど、もう一つ別の用事があったんです」

「別の用事?そういえば、貸し物がどうこう、借り物がどうこうって話されていましたね」


 そのときは『結局のところ、借り物ってなんの話だったのだろうか?』と疑問に思ってはいた。


 けれど、そのあとフィルとの別れを決意したり、私が魔法アレルギーで倒れたりと、あまりにバタバタしてたのですっかり忘れていた。


 青ローブの魔法使いは、照れたようにパチリとウインクをする。


「ええ。私ったら余計なおせっかいをしただけで満足して帰ってしまって。ごめんなさいね。本当はこれをお渡ししたかったんです」


 そう言って彼女はあるものを差し出す。

 私は一目見て、すぐにそれが何なのか分かり、びっくりしてしまった。


「これって、仮面舞踏会で壊れてしまった仮面ではないですか!」

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