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「あれ、エマ様?」
彼女はいつもの制服ではなく、白い清楚なワンピースを着ていた。何か大きな紙袋を持っているのが目につく。そんなエマ様は屋敷の入り口でうろうろしていた。ちらちらと屋敷の入り口に目を向けて、足を踏み出そうとするけれど、結局屋敷には入らず、またうろうろと入り口付近をうろついている。
(どうしたんだろう? ナディーヌ様に何か用なのかな)
そういえば、目覚めた直後に会って以来、エマ様と顔を合わせていなかった。
(エマ様が許してくれるなら、もう一度謝りたいな。……ちょっと声をかけてみよう)
ドアを開けた瞬間、暑い日差しが降り注ぐ。一歩足を踏み出したら汗が噴き出してしまいそうだ。こんな中一人門のあたりを往復していたエマ様は、相当暑い思いをしているだろう。
(もし用事がなかったとしても、お茶の一杯はお出ししておきましょう。しょっぱいお茶請けがいいわよね。漬物……はエマ様お嫌いでしたね。塩っ気のあるクッキーを包んでおきましょっか)
頭の中で考えをめぐらせながら、エマ様に声をかける。
「あの、エマ様。どうなさいましたか」
「せ、セシリー様……!」
エマ様はかちりと固まる。どうしたのかと小首をかしげると、突然、エマ様の瞳から涙がこぼれた。
「わっ! ど、どうなさりました!? どこか怪我でも」
「セシリー様!! ご無事で、ご無事でよかったです!!!!!」
エマ様は全速力で駆けると、私の胸に飛び込んだ。
「うっ、」
懸命に足をふんばり、エマ様を受け止める。
「ごめんなさい、わたくしのせいで、セシリー様に苦しい思いをさせてしまって……! もう胸は痛くありませんか!?」
「え、エマ様……」
エマ様に体当たりされてちょっと痛いが、私は微笑んで「おかげ様で大分よくなりました」と答える。
「そうですか、そうですか……! よかったです!」
よく見ると、エマ様の目の下には黒い隈が出来てしまっている。
きっと、夜も寝れずに悩んでくれていたのだろう。
そう気が付くと、申し訳ない気持ちに苛まれる。
「エマ様は何も悪くありませんよ。変だと思ったとき、すぐにエマ様へ伝えなかった私の責任です」
「いえ、違いますよ! 魔法使いとして、どんな副作用があるかしっかりお伝え出来なかったわたくしの責任です」
エマ様はしょんぼりと項垂れる。
「わたくしも、少し調子に乗ってしまっていました。あこがれのナディーヌ様の弟子になって、浮かれていたんです。ですから、魔法にどんな危険があるのかも知らずに、セシリー様を危険な目に合わせてしまいました」
「そんな、そこまでお気を落とさないでください」
「いえ、これはきっちり自分自身を罰しなくてはなりません。ですから、今は学校以外で外出はしないようにしているんです。今日はセシリー様に謝罪をするために来てしまいましたが、これからはセシリー様が完治するまでわたくしも家で謹慎させていただきます」
「き、謹慎……?」
エマ様の家でそういう処分が下ってしまったのかと心配して問いてみるが、エマ様自身がけじめをつけたいからそうしたいらしい。
「ですけど、私が完治するまでって……。結構時間かかりそうですよ。私に合わせなくても大丈夫ですから、外で元気に遊んでください。ほら、明日はお祭りですし」
「お祭りなんてとんでもない! 明日は家にいて、学校の勉強をしています」
しっかりとした言葉だったが、どこか寂しそうにしていた。
エマ様はお祭りが嫌いなタイプではない、むしろ大好きな方だ。きっと、今回の騒動がなかったら、友達か両親と一緒になってお祭りを楽しんでいたことだろう。
「……」
私が思い出すのは、小さな頃の思い出、初めて灯ノ祭に行った時のことだ。
お祭りを楽しみにしていたけど、暗い中で一人いるのが怖くて、だけどフィルが手を引っぱってくれたおかげで私の中の最高の思い出になってくれた。
当時の私と、エマ様がお祭りにいけない理由は全く違う。だけど……。
(エマ様はきっと、すごく責任感が強くて、だからお祭りに行かないっていってくれているんだと思う。だけど、正直この件に関しては私の方が悪いし、お祭りくらいエマ様に楽しんでもらいたい)
エマ様は悪くないと説得するのは逆効果だろう。
それならばと、私はエマ様をそっと抱きしめて、ちょっと突飛なお誘いをしてみた。
「エマ様。もしよかったらですけど……。明日のお祭り、一緒に行ってくれませんか」
「……へ? いえ、先ほども申上げた通り、私は謹慎の身ですから」
「実は私、ナディーヌ様にお使いを頼まれているんですよ。綿あめを買ってきてって。ほら、ナディーヌ様は城の祭典に行ってしまうから、ご自身では買いに行けないんです」
「ああ……。そういえばそんなことおっしゃっていましたね」
「ナディーヌ様には、それくらいのお使いなら大丈夫だと言ってくださいました。ですけど、お祭りを一人でっていうのもつまらないですし……。せっかくだからエマ様も一緒にどうでしょうか?」
あくまで、私からのお願いという体でお誘いをすると、エマ様は少し悩むそぶりを見せてくれる。
「……ですけど……」
「……それに、もし私が途中で倒れてしまったら、エマ様に助けてもらえますから。どうですかね?」
それがとどめの一言になった。エマ様は小さく頷く。
「そう、ですね。それなら、一緒に行きましょう。わたくしなりの、セシリー様への恩返しです!」
沈んでいた声が、少しだけ明るくなったような気がした。
「ありがとうございます、エマ様」
お使いのついでという名目でエマ様とお祭りを楽しめれば、彼女も少しは気分が晴れるかもしれない。
一緒に付き合っているのが私なのが申し訳ない気もするが、もしエマ様のご友人とばったり出くわしたら、其処で何らかの理由を付けて別れればいいだけのことだ。
(これで、エマ様の気も晴れるといいな)
それが、迷惑をかけまくった私が必死に考えて編み出した、エマ様への恩返し。
「ここで明日の予定を話すのも何ですし、屋敷にお入りください。美味しいクッキーをご用意しますよ」
「すみません、何から何まで」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
エマ様からの手土産をいただき、屋敷の中に彼女を案内した。目覚めてから気が滅入ることばかり続いていたが、今日ばかりは、晴れやかな気持ちになっていた。




