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灯ノ祭の三週間前、商店街や公園では準備に忙しく出回っているのであろうが、一使用人である私はいつも通りの仕事をこなしていた。
今日の仕事は庭の雑草取り。
比較的涼しい朝方に仕事をするとはいえ、今の季節は夏真っただ中だ。丁寧に草取りをしていたら暑さで倒れかねないので、しぶとい雑草だけを抜き取ることとする。
力強く伸びた雑草をスコップ片手に引っこ抜いていると、庭の花に水を上げていたメイドがちらりと私が被る帽子に目を向ける。
「その帽子、結構しっかりしていますね。前のは買い替えたんですか?」
「あー、いや、捨ててしまったわ。結構ガタがきていたからね。これは普段着けている帽子よ。ちょうどお出かけ用の麦わら帽子をプレゼントしてもらったから、元々のお出かけ用を作業用にしたの。やっぱりこっちの方がいいわね。ワラが頬に刺さらないし」
なんて貧乏くさいことをいっていると、メイドちゃんはなぜか周りを警戒した後に、私へ耳打ちをしてくる。
「あの、ひょっとして、なんですけど。違ったらごめんなさい。その、麦わら帽子をプレゼントしてもらったのって、もしかして彼氏さん、とかだったりします?」
「へ!? い、いやーそれは」
「やっぱり!」
嘘すらつく暇もなく、あっさりとばれてしまった。
「……私って、そんなに分かりやすいですかね……」
「メイド長の嘘は結構バレバレですよ。フィルコック長ほど見分けられませんけれどね。それよりも! 一体誰なんですか! メイド長のハートを射止めた男は!?」
「わかった、わかったから落ち着いて!」
こんな会話、後輩たちの耳には入れたくない。
誰もいないことを確認してから、小さな声で言う。
「多分、考えているよりも全然ロマンティックじゃないわよ。ただの片思いだし」
「片思い!? 付き合っているわけではないんですか!?」
「声が大きい! 静かに! ……付き合っているけど、好き合ってないというか、なんというか」
「付き合っているけど、相手はセシリーメイド長のことをお好きではない? ……それって、もしかして騙されているんではないですか」
一気に表情が険しくなったので、慌てて首を横に振る。
「いえいえ! そういうのじゃないよ。大丈夫。そこら辺の事情はちょっとごちゃごちゃしているから、深入りはしないでほしいな」
「……セシリーメイド長がそうおっしゃるなら……」
彼女は渋々といった様子で引き下がってくれた。 その代わりと言いたげに、別の質問を投げかけてきた。
「それでは、最近一週間に一回お休みをとっているのもデートでしたか」
「えっと、そう、ね。……みんなが仕事をしているときに悠長にデートなんて、メイド長失格よね」
「いやあ、そんなことありませんよ。そもそもメイド長って、月に一度くらいしか休みを取らないじゃないですか。週に一回休みを取るくらい誰も責めませんって」
「それならいいけど……。でも、他の人には内緒にしていてね」
「分かってますよ。それにしても、メイド長が恋人かあ……。なんだか信じられませんよ。明日は豪雨かしら」
「ひどい言い草ね。……でも、大丈夫よ。多分、今の彼とは……別れるから」
「え? ちょ、ちょっとセシリーメイド長! その話詳しく!」
「はい、もうこの話はおしまい」
「えー!! で、ですけど、」
「仕事再開させて。お花に水をあげましょう。ほらほら、メイド長命令よ」
私は花を指さしてニッコリ微笑む。
困惑して立ちつくしていた彼女も、『命令』と指示されてしまったら従わざるを得ない。もの言いたげな視線を向けつつ、彼女は水やりを再開してくれる。
私も彼女を背にして、黙々と仕事を続ける。
二人して淡々と作業を進めていたおかげか、雑草はみるみると片付き、全ての花に水をあげることができた。
「よし、それじゃあ中に戻りましょう。あなたはしばらく休憩室で休んでていいわよ。私は他の人の進捗状況を確認してくるから。先に戻っているね」
屋敷の裏口から屋敷に戻ろうとすると、後ろにいた彼女が小さな声で、しかしこちらに伝える意思を持って言う。
「セシリーメイド長。もし、悩み事がありましたらお聞きしますからね。一人で抱え込まないでください」
「……ありがとう。今のところは大丈夫だから、気持ちだけ受け取っておくわ」
そうとしか答えられない。正直、私も吐き出せるものなら吐き出したいが、それにしては抱えているものがあまりに大きすぎる。
(それに、このことは自分で決めなくてはならないことだしね……)
はじまりは唐突で、どちらかというとエマ様やフィル、その時々の状況に流されてしまって、ここまで来てしまった。
だからせめて終わりだけは、
びしっと決めたかった。
(……でも、最後にエマ様には話しておかないとね。今までのお礼とか、宝石の手入れ方法とか、色々聞かなくちゃいけないこと沢山あるからね)




