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気温も少しだけ和らぐ夕方時。昼間にできなかったお出かけをしようと商店街には多くの人が行きかっていた。
(へえ……。夕方ってこんなに人いるのね。そういえばこの時間に買い物っていったことがなかったわね)
いつもは夕食の準備をしている頃合いだ。うちの屋敷では食事準備はコックの仕事になっているが、何もしないわけにはいかず、手伝いをしているので意外と忙しい。朝や昼は買い出しでよく来ているが、時間が違うと雰囲気も何もかも違って見える。
「わあ、すごい、大道芸もやっているんですね!」
芸人たちは何十個もののお手玉をぽんぽん回し、傘の上の皿をくるくると回していた。
まるで魔法みたいだと感心して眺めていると、フィルがこつんと私の肩を叩く。
「ぼうっとしているとはぐれちゃうよ。はい、」
「わっ!」
フィルは有無を言わさず私の手を掴む。
指をからみとり、いたずらっぽく笑う。
「これで大丈夫だね。さあさあ行きましょうか、僕のお嬢様?」
「……もう、キザなんだから……」
最初の時は頑固拒否の姿勢を貫いていたが、お構いなしに手をつないでくるフィルのしつこさに諦めて、今では素直に手をつないであげている。
そう、私はつないであげているのだ。
別に、フィルと手をつないでいるのが嬉しいわけではない。断じてない。
だから今も頬を膨らませて不満を強調してみせる。
……だけど、ショーウィンドウにうつる私の表情は言い訳できないほど緩みきっていて。
(え、ええい! よけい恥ずかしくなるわ!!)
私は慌てて視線をそらして俯く。
そのとき、私は自分への戸惑いとフィルに追いつくことばかり考えていて、
背後からじっと見てくる人影に、気づけなかった。
○○○
灯ノ花を花屋で注文した後、私はフィルに案内されてあるカフェやさんに入った。
そして、きょどっていた。
「フィルさん、ここって本当にカフェ屋さんですか……?」
「そうそう。パンケーキが有名なカフェ屋さんだよ。もしかして、パンケーキ苦手だったりした?」
「いえいえ! そうじゃないんですけど……」
私が思い描いていたカフェ屋さんは、机と椅子があって、ジャズのBGMに心落ち着かせながら読書や事に勤しむ、なんてイメージだった。
だが、ここのカフェ屋さんは全く違っていた。
ふわふわの真っ白なソファに、それこそパンケーキと飲み物しか置けなさそうな小さなテーブル、BGNはポップで女子に人気な曲と、私からすると全くカフェ感がないものだった。
(今時のカフェってこんな感じなのね……)
「フィルさんはよくこのお店に来られるんですか?」
「一度か二度だけね。だけど最近は来てなかったから、メニューもちょっと変わっているなあ。チョコのパンケーキなんて見たことない。美味しそうだからこれ頼もうかな」
「それじゃあ、私も同じものを」
「それじゃあ頼むね」
フィルはお店の人を呼び止めて注文をする。
メニューを指さしして、丁寧な言葉で店員さんにメニューを伝えていく。そんな当然といえば当然の行動にもかかわらず、「かっこいいなあ」なんて思ってしまう私はおそらく病気だ……。
(ああ……。時が解決するしかないのかしら……。できれば今すぐ解決してほしいのに)
恨み言をいったところで私の気持ちは落ち着いてくれない。
(一旦お手洗いにいこうかしら……。それで落ち着いたら落ち着いたで、無理だったらエマ様とお話しして気をまぎわらそう……)
今のままだと疲れて倒れてしまいそうだ。
そう決意していたらタイミングよくフィルが注文を終わらせてくれたので、礼と共に少し席を立つと告げる。
「ああ、それなら奥の方だよ」
「すみません、ありがとうございます」
「いいえいいえ」
お手洗いの場所まで把握しているとはさすがだと思いつつ、彼が指さした方へと向かう。フィルが教えてくれた通り、お手洗いは奥のほうに用意されていた。それに加え、なんと化粧直し用のスペースまで用意されているではないか。
(す、すごい……。女性にいたせりつくセリね)
それならわざわざ数が限られているトイレにこもる必要はない、ので、化粧直しスペースのはじっこで荷物の整理をするそぶりをしながら宝石を握りしめる。
《もしもしエマ様、セシリーです》
《もしもしこちらエマです! セシリー様、その後のデートはいかがですか? 告白しましたか?》
《するわけないじゃないですか……。それよりもエマ様に相談したいことがありまして》
《? どうなさいました? まさか、宝石さんの機能がうまく使えない、とかですか!》
《いえいえ! そういうわけではなくて……。そのー》
気持ちをどうにか落ち着かせる方法はないものかと、エマ様に質問をしようとした、が。
「そこの人」
凛とした声が化粧室に響く。
「……?」
ここにいるのは私しかいない。ということは私に用事があるのだろうか。
《すみませんエマ様。少しお待ちください》
心の中で唱えながら顔を上げ、声の主を確認する。
そこには、一人の女性が立っていた。




