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私、セシリーは絶句し、怒りで震えてしまった。
「それは本当ですか。あのフィルがこともあろうにエマ様に酷いことをした、なんて!」
「いえいえそんな! フィル様もフィル様でセシリー様のことが心配だったんでしょうし」
エマ様は慌てた様子で否定するが、いつもポシェットにいる白うさぎ、ビッちゃんはそうはいかない。ビっちゃんは机の上に乗っかり、腹立だしそうに後ろ脚で机を叩きつける。
『あの人間風情が! ボクがその場にいたらぎったぎったのボロボロにしてやったのに!』
「ビっちゃん、そんな怖いこと言っちゃ駄目でしょう!」
あの普段寝てばかりでめんどくさそうにしているウサギちゃんが、ここまで怒っているのだ。相当ひどいことを言われたのだろう。
「本当に申し訳ありません。うちのコック長がエマ様にそのようなまねを……」
「大丈夫ですって。ビっちゃんがちょっと大げさに騒いでいるだけですから。ビっちゃんも落ち着きなさい。ああもう、机をかじっちゃ駄目でしょ!」
エマ様はビっちゃんをポシェットにしまう。抵抗もせずにしまわれるウサギちゃんだが、不機嫌そうに目をつりあげている。それもそうだ。自分の主人が傷つけられたのだから怒って当然だ。むしろ、エマ様のように許してくれる方が稀だ。
(全くもう、フィルったら……! エマ様がお優しかったからよかったようなものの!)
他の屋敷で同じことをやってしまったら最悪解雇もありえる。
「私、後で強くいっておきますね!」
勢いでそういうが。
「あ、でもそうなるとフィルと顔を合わせないといけないのか……」
それは……。今は出来る気がしない……。
どうしようかと悩んでいると、エマ様はきょとんとして私に尋ねる。
「フィル様からお聞きになったときから気になっていましたが、どうしてセシリー様はフィル様とお話しされないんですか?」
「……えっと、」
どうしよう、フィルへの恋心をここで暴露するべきだろうか。
いやでも恥ずかしいし……。
いやでもここは言うべきか……。
いやでも。
『ボクは分かるよ。どうせその女があのコックに恋しているからだよ』
「え!? 恋!?」
「ちょ、ビっちゃん!?!?」
あっさりとばらされてしまった!!
うろたえる私だったが、エマ様は目をらんらんと輝かせて私の手を握る。
「そうなんですね! とうとうお二人の間に恋が芽生えられたのですか!! おめでとうございます! 結婚式には是非ともお呼びください!!!」
「エマ様気が早いですよ! け、結婚式なんて、そんな、しませんって!!」
「え! もしかして、最近はやりの式をあげない結婚ですか?」
違う! そうじゃない!!
「そもそも結婚自体しませんから!!! むしろ付き合いませんって!!」
「へ? 付き合っているじゃないですか」
「あれはリリーとしてっ! セシリーとしては付き合っていません!」
「ええ!!?? 正体をばらさないのですか! 好きなんですからお付き合いしましょうよ!?」
「向こうが好きとは限りませんって!」
「わたくしの見た感じですと、フィル様はセシリー様のことを好ましく思っている気がしますから大丈夫ですよ!」
「いやいや、それはありえませんって。嫌い……ではないでしょうけど、好きとまでは……」
「好きだからこそ、フィル様はわたくしにあんな強い態度に出たんですって!」
「……それは……ほ、ほら、家族だと思っているからに違いないですよ! 恋愛感情は絶対ありませんって!」
「ですけど」
ええい、エマ様押しが強い!!
ここはもう仕方ない。最終手段だ。
「そ、そういえばもうフィルとのデートに行く時間ですよ! 魔法をかけていただいてもよろしいですか!」
「あら、本当ですね! それでは準備をしましょう。今日は張り切って魔法をおかけしますよ! フィル様がセシリー様に惚れてしまうように!」
「……ははは」
真っすぐなエマ様の言葉に、私は愛想笑いをしてやり過ごした。




