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 次のデートでは『換えの帽子があったほうがいいよね』といって帽子を買ってもらい、

 その次のデートでは、フィルが予約してくれたレストランに行った。


 着々とデートの回数が増えていき、行った場所も多くなる。

 こっ恥ずかしいことを言われて怒ってみたり、美味しいものを食べて嬉しくなったり、彼に触れられるたびに心の中があったかくなって、本当に楽しい時間を過ごせた。


 ……それでも、フィルがそういう態度をとってくれるのはリリーの時だけで、セシリーの時はいつも通り冷たい目で見られてしまう。


 フィルが他の女性に近寄らないようにすること自体は成功している。

 他のメイドやコックに尋ねてみると、夜勤以外の仕事のときでリリーとの予定がない日は真っすぐ自室へ帰っているようだ。


 だから私は目的を達成できたと、フィルが最悪の事態になることはないのだと、そう誇ってもいいはずだ。

 いいはず、なのに。


(私って、何やってるんだろう)


 そんなことを思いながら、深々とため息をつく。


「セシリー様、どうなさいました?」

「あ、いえ何でもありません」


(しまったしまった、エマ様の前でため息をつくなんて、何様のつもりよ私)


 これからフィルとのデートが待っているので、魔法をかけてもらいにエマ様のお屋敷に来ていたのだった。悩みを悟られないようにニッコリと笑う。


「いつでも魔法をかけていただいて大丈夫ですよ」

「あら、そうですか? ではでは、変装魔法をかけさせていただきますね! ビっちゃん! 杖出して!」


 寝ていたウサギは気だるそうに目を開くと、めんどくさそうに手を叩く。

 そこからはいつも見た通り。光の玉が現れ、杖の形となってエマ様の手に収まる。


「よし、行きますよ……! 

『水よ水 清らかなお水さん

 わたくしの願いをかなえたまえ

 セシリー様の願いをかなえたまえ

 ゆけ! きれいきれいの魔法!』」


(今日は私の名前が入ってくるパターンなのね……)


 魔術の呪文というのは、別に固定されているわけではないらしい。エマ様は毎回違う呪文を唱えてくれる。


 それが、私が魔法について知ったことの一つ。


 そして、もう一つ。


「……っ」


 私は胸元を抑えて唇を噛む。


(うっ、どうも慣れない……!)


 肺が水でパンパンになったかのように息ができない。

 せき込んでも喉は塞いだままだと分かっているので、手を握りしめてどうにかやり過ごす。


 苦しみは、ものの数秒で終わった。


 水が一気に引くと、私は鼻からゆっくりと空気を吸う。


「お疲れ様です、セシリー様! 今日も今日で成功ですよ」


 鏡を見せてもらうと、そこにいたのはまるでお人形さんのように白い肌を持つ、美しい女性だった。


「……いつもありがとうございます、エマ様」

「いいえいいえ! これくらいお安い御用ですよ」


 変装してフィルとデートする。それだけでも大変だが、変装魔法の副作用に耐えるのもちょっとばっかしきついものがある。


(何回もかけてもらっているのに、どうも慣れないわね……)


 二回目に変装魔法をかけてもらったとき、今回と同じように息ができなくなってしまった。その時は焦ったが、三回目も四回目も同じ不調が出てくるとさすがに驚かなくなった。


 エマ様の言葉を推測する限り、この現象は魔法の副作用らしい。


 三・四回目のデートを終えた後だっただろうか。エマ様にそれとなく「非魔法使いが魔法にかけられたときに、少し肌が痛くなるとか、喉が痛くなるとか、そういうことはあるんですか」と聞いてみたのだ。


 すると、非魔法使いでなくても魔法をかけられたときは少し痛みが出てしまうものだと教えてくれた。「お姉さまのような能力ある魔法使いならそうはなりませんが、そうでもない人だと痛みも強くなってしまうらしいです」なんて彼女は笑った。


 その瞬間、私は決意した。

 エマ様に私の不調を悟られてはいけない、と。

 

 優しいエマ様のことだ、私が苦しんでいると分かったら大層落ち込んでしまいかねない。そんなエマ様の姿はできれば見たくない。


(まあ、別に痛みがひどくなっていくわけではないしね……。魔法をかけてもらうときに一瞬だけ我慢すればいいんだから)


 切り傷上等な肉体労働者としては、それくらいの我慢は余裕でできる。

 私は気持ちを切り替えて、頬を軽く叩く。


「よし、それではフィルとのデートに行ってきます」

「行ってらっしゃいませ! 今度こそ、セシリー様の魅力でフィル様をキュンキュンさせてくださいね!」

「あはは……。頑張ってみます」


 口ではそう言ってみたものの全く自信なくデート場所へと向かう。


 ……結局のところその日のデートも、次のデートでさえも、フィルに翻弄されるだけされて終わってしまい、恋させるまで進歩することはなかった。

 

 デートの翌日はいつもうまくいかなかったと落ち込んでしまう。この日の私も、いつもと同じように、もしかしたらいつもよりも落ち込んでしまっていた。


(はあ……。うまくいかないなあ)


 実は前日、履きなれないヒールに足をくじいてしまったのか、見事にすっころんで自分の服とフィルの服を汚してしまったのだ。必死に謝ったら許してくれたが、それでもその時の失態を思い出すと沈んでしまう。


(女性ならヒールの一つや二つは慣れておいた方がいいわね……。いや、私の場合、見た目よりも中身の方をもっと女性らしくした方がいいわね……)


 仕事中にもかかわらず、どうしたらフィルに恋を理解してもらえるかと頭を悩ませてしまっている。仕事に集中しなくてはならないというのに。


(そもそも、私だって恋なんてものを分からないわけだし……)


 彼氏いない歴イコール年齢だった(今も付き合っているのはリリーの方だから、更新中かもしれない)わけだし。

 そんな私が色々と試してみたところで、フィルのためになることはできないかもしれない。


 そんなことを思って、憂鬱になって、気が散ってしまう。


 そんな日を繰り返してしまったから、きっと神様がバチを与えてきたのだろう。

 その日私は、とんでもないミスをしてしまうこととなった。


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