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食べ終えると、トイレと称して物陰に隠れてエマ様に連絡を入れる。
《セシリー様、どうでしたか? すみません、わたくしの不手際でデート場所が公園になってしまって……》
落ち込むエマ様だったが、私は小さく首を横に振る。
《いいえ、私の質問がうまくなかっただけですし。それに、公園でも美味しいご飯を食べられました》
《ですけど、公園だといい感じの雰囲気になりませんよね……。公園ですし……》
《……》
『君が可愛い』
フィルの笑顔と、彼の言葉が頭に浮き上がってしまって、顔が真っ赤になってしまう。
(ああもう!!!)
つい思いっきり頬を叩く。
《え? どうしました?》
音が入ってしまったようで、エマ様が不思議そうに尋ねてくる。
《いえ……。そ、そういえばさっきは聞けないでいましたね。魔法道具の最後の機能って何でしょう》
話を変えようと、それとさっきみたいな状況を打破できる手段があるかもしれないと、先ほど聞きそびれていたことを尋ねる。
《ああ、そういえばお伝えできていませんでしたね。最後の一つは『フィフティーンフィフティーン』。効果は》
《……もしかして、選択肢を半分にする、とかですか》
《そうですそうです! どうしてわかったんですか?》
《そのー、この魔法の力って、昔はやっていたクイズ劇場を真似していますか?》
《ああ、御存じでしたか! そうですそうです。『クイズ! ミミオネーアンちゃん』です!》
『クイズ! ミミオネーアンちゃん』とは、私が十代の頃に一世を風靡した、観客参加型のクイズ劇場だ。
クイズの回答者は物知りではあるがただの一般人。そんな回答者が数々のクイズを乗り越え、賞金を手に入れるという内容である。
とはいえ、クイズもそれなりに難しく、回答者が知らない問題もたくさん出題される。その時に使うのが三つのお助けシステムである。そのお助けシステムと魔法道具の機能が似ていたので、もしやと思っていたがやっぱり似せていたようだ。
《ああ、やっぱりそうだったんですね。懐かしいなあ。物陰から見ていましたよ》
普通の劇場よりは安い値段で見ることができたが、それでも大金でガードマンにばれないようにこっそりとみていたものだ。
しみじみと思い出していると、エマ様は嬉しそうに言う。
《そうですそうです! わたくしのお母様も好きだったと言っていました!》
《……》
(……そっか。もうエマ様の母親が知っているくらい昔の流行なんだ)
地味に傷つく……。
若干しょんぼりしていたが、エマ様には伝わらなかったのであろう。陽気な声で話す。
《三つの機能は一度使うと一日使えなくなりますので、お気をつけてください。呪文を使いたいときには、先ほどのように宝石をつかんで心の中で叫んでください。そうすると使えるようになります》
《……わかりました、ありがとうございます。それではそろそろフィルのところに戻りますね。彼に怪しまれるかもしれませんから》
《はい、それでは、また何かあれば連絡してください。ご武運をお祈りします》
私はフィルと戦うのかと突っ込もうとしたときには、エマ様との通信は切れてしまっていた。フィルが待ってくれている場所へ戻りつつ、エマ様が教えてくれた宝石の機能について考える。
(三つ目の機能は『フィフティーンフィフティーン』かあ。本家と同じような機能だったら、四つ以上の選択肢がないと使えないわよね。そんなシチュエーションそうそうないわよねえ)
三つ目の機能があまり使えないとなると、もう魔法道具には頼れないこととなる。
(なら、私の力で頑張らないと)
思えば、エマ様と魔法道具の力で今乗り切っているようなものだ。
他人の力を借りまくってどうにかするなんて、メイド長として恥でしかない。
(よしっ、どんな困難にも、色気を出しまくっているフィルにも、絶対負けないぞ!)
決意を胸に、待っていたフィルのもとへといく。
「お待たせしました。すみません、お手洗いが混んでいたようで」
「いやいや大丈夫。次はどこ行きたい?」
「うーん、どこでも大丈夫ですよ。フィルさんはどうですか」
「僕もどこでもいいかな。そうだ、」
フィルはぽんと手を叩いて、ちょっと意地悪そうにほほ笑む。
「今から候補になりそうなところを言っていくから、リリーちゃんが選んでね。一つ目、屋台を見に行く。二つ目、花畑を見に行く。三つ目、目的もなくぶらっと散歩。四つ目は、そうだな……僕の家にでも来る?」
「へ!!??」
「リリーちゃんはどれがいい? 僕は最後の案がいいと思うけど。どう?」
「……ふぃ、」
「……フィ?」
私は心の中で思いっきり叫んだ。
(『フィフティーフィフティー』!!!)
メイド長たるもの!! 使える道具はすり切れるまで使わなくてはならない!!
決死の想いで呪文を唱えると、宝石は輝き、私に二つの選択肢を示す。
その二つというのが……。
(どうして花畑かフィルの家なの!?)
一番やばそうなのが残っているではないか!
「い、家ってなんですか!? これって初デートですよね!? それとも今時の若者は初デートに家へ誘うものなんですか!?」
というかあんたの家、ナディーヌ様のお屋敷でしょうが!! 職場も兼ねている場所に女性連れ込まないの!!
カンカンに怒るも、フィルはどこ吹く風といわんばかりにコロコロと笑う。
「大丈夫。変なことはしないから。どう? うち来る?」
「花畑でお願いします!!!」
それしか選択肢はない!!
「そう? 残念。それならいこっか」
フィルは手を伸ばしてくる。その意味を察して、瞬時に手を引いた。
「いやいや! 自分で歩けます!」
「まあまあ。片手がふさがっていると僕が寂しいからね。慈善活動だと思って。ほら、僕ら恋人だしさ」
ふわふわとした彼の笑みに、反対したい気持ちがしぼんでしまった。
「……やっぱりフィルさんは性格が悪いです」
(これはふり、そうあくまでふりなんだから……)
私は彼の方に手を伸ばす。
それでも手を掴むのをためらっていると、フィルは優しく私の手を掴んで、絡ませる。
「さ、いこっか」
「……はい」
彼に連れていかれる中、フィルは色々と話題を振ってくれたような気がした。
だけど彼の手の感触が、……大きくてしっかりとした手の暖かさに気をとられ、うまく答えが返せなかった。




