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 梅雨も明け、空は曇り一つもない快晴だ。たまった洗濯物を片付くのはいいけれど、肉体労働をする私にとってはそろそろ熱中症が怖くなってくる時期だ。


 そうはいってもまだ本格的な夏ではないので、夕方になると涼しい風が吹いていて気持ちがいい。ここ、城門前広場で待ち合わせしている人たちも薄着を一枚羽織っている人が多い気がする。


 それにしても、さすが待ち合わせスポットなだけあって、平日の夕方だというのに活気にあふれていた。


 ある人は手鏡をちらちら見ながら髪をいじり、ある人は楽しげに友人とおしゃべりしている。そんな明るさで満ち溢れているこの場所で、


 ……私の気持ちは真っ暗闇だった。


(フィルとのデート、フィルとのデートかあ……)


 もしかしたらさっきの息が出来なかったあれは、心労のせいだったのかもしれない。


 そう思ってしまうほど、胸の奥が締め付けられる気分だ。


(待ち合わせ時間まではまだだけど、フィルは来ていないよね……?)


 段々と不安になってきてしまって挙動不審になっていると、誰かから声をかけられる。、


「ねえ、そこのお嬢さん?」

 

 目の前には二人組の男性が立っていた。十代くらいだろうか、若い青年でどちらもそれなりに顔が整っている。


 見覚えのない人だが、もしかしたら昨日の舞踏会で会ったことがあるのだろうか?


「はい? なんでしょうか」


 訝しげに返事をすると、彼等は嘘くさい笑みで喋りかけてきた。


「どう? 今から俺らと遊びに行かない?」

「いいところを紹介するよぉ」


 彼らの態度からすると、どうやら初対面の様だ。


(というか、もしかしてこれってナンパ? 話には聞いていたけど、本当にいるのねえ)


 動物園にいる動物を初めて野生で見た感覚を抱きつつ、彼らの誘いをきっぱり断る。


「すみません、約束がありますので」


 それで引き下がってくれればいいのに、なんと、彼らはグイグイと私に近づいてきた。


「えーなんだよ。いいじゃん。俺らといるほうが楽しめるぜ」

「そーそー! とりあえず五分だけでもさ、ほら」


(し、しつこい!? この人たちしつこいわ!?)


 あのドラゴン仮面並のうざさだ。


(ああ、早く来すぎちゃったのが良くなかったわね)


 彼との待ち合わせ時間まで、まだ二十分もある。それまでに彼らが諦めてくれればいいのだが、最悪の場合ニ十分間ずっとのらりくらりとかわし続けなくてはならなくなる。


(エマ様に相談……。いや、そんな隙がない……)


 舞踏会の時のように、お手洗いに行くふりをして逃げてしまおうか。だけどこの人たちについてこられたら、それこそまくだけで手いいっぱいになってしまって、フィルとの待ち合わせ時間に間に合わなくなる。


 どうしようかどうしようかとオロオロしていると、。


「君たち。彼女に何の用かな?」


 フィルが、私とナンパ男の間に割って入った。


「なんだよおめえ」

「俺らが先に声かけてたんだぞ」


 殺気立つナンパたちだったが、フィルは臆することなくにっこりと微笑む。


「いえ? 先に僕が声をかけていましたよ。なんだって、」


 フィルは私の肩をそっとさする。


「この人は私の彼女ですから」


(か、彼女っ!)


 今後一生呼ばれないであろうワードにおののいていると、ナンパ男たちは私とフィルを見比べて舌打ちをする。


「ちっ、はいはい。お好きにどーぞ」

「ったく、彼氏持ちかよ。先に言えっての」


 ぶつぶつと文句をつぶやきながら、彼らはどこかへと行く。


 フィルはしばらく彼らの後ろ姿を注視して、他の女の子に話しかけはじめたのを確認すると私に微笑みかける。


「お久しぶり、リリーちゃん。からだの調子はどう?」

「ああ、特になにもなかったです。その節はありがとうございます」


 お礼を言おうと、フィルにぺこりと頭を下げる。


「すみません、この前から色々と助けていただいて。今だって、ナンパに絡まれていたところを助けてもらってしまいましたね」

「いえいえ、僕は君の彼女だからね、当然だよ。むしろもっと早く来ておけばよかった。怖い思いをさせてごめん」

「い、いえ。怖くなんかありません」


 ちょっとは怖かったけれど、悟られないように誤魔化す。が、


「やっぱり怖かったよね。君の家まで送り迎えできたらいいんだろうけど」


 あっさりばれてしまった。


「……私って、そこまで嘘がへたくそですか」

「うん、すっごく下手」


 フィルは小さく笑う。

 

「時間も限られているし、さっそくご飯を食べにいこっか。何食べたい?」


(……よし、来たわね)


 エマ様とせっせと打ち合わせをしていたのだ。これくらいは魔法道具に頼らなくても答えられる。

 デートっぽい夕食、それは……!


「れ、レストランでステーキ的なあれでにしましょう!」

「レストランでステーキ?」

 

 フィルはぽかんとして繰り返す。


「ええ! デートの定石ですから」


 胸を張って答えるが、彼は何とも言い難い笑みを浮かべる。


「……リリーちゃんって、本当に誰とも付き合ったことないんだ」

「へ? ええそうですけど。急にどうしましたか」

「いや。レストランでステーキもいいけど、今から急にお店には入れないよ」

「そうなんですか!?」

「コネがある方かネームバリューのある方なら別だけど。もし貴族や王族、名家の魔法使いだったならなんとかなるかもしれないね」

「……」


 なるほど。だから名家の魔法使いちゃんであるエマ様は「行けば案内してくれますよ!」と答えていたのか。


「では、何を食べましょうか」

「……」

「……」

「……リリーちゃん?」

「……フィルさん」


 私はまっすぐフィルを見つめて、こういった。


「タイム」

「……へ?」

「ちょっとそこで待っててください!」


 フィルからは見えない場所に隠れ、バックの中にいれていた布袋をとりだし、中にある宝石に手を触れる。


《エマ様! エマ様!》

《はい!! どうしましたか? 今くらいの時間だったら、もうレストランについた頃ですね!》

《それが、予約をしないとレストランには行けないみたいで》

《ええ!? そんな! ですが、わたくしの時には……っ》

《庶民だと無理らしく……》


 フィルが教えてくれたことを伝えると、エマ様はぷりぷりと怒る。


《わたくし、そういう差別嫌いです!》


 エマ様がぷいっとそっぽを向く絵が頭に浮かぶ。

 

(優しいなあ、エマ様)


 緊張の糸がほどけて、くすりと微笑む。

 

《それはともかく、他のお店を探さなくてはならなくなってしまいました。どうしましょう》

《うーん、そうですねえ……。デート、デート……。うーん、夜景が見えるバー……。いえ、それもそれで予約が必要かもしれません。だけど他の場所……うーん……》


 流石のエマ様も大分悩んでいるようだ。

 私もエマ様に全て任せることはしないで一緒に頭をひねる。


 しかし考えても考えても、大人っぽいデートが出来る場所なんて浮かばなかった。


 エマ様もそんな感じらしく、苦しげにうなる。


《セシリー様、すみません。全く思いつきません》

《いいんですよ、エマ様。私も思いつきませんから》

《うーん、あまりこういう手は使いたくありませんでしたが、ここは最終手段でいきましょう》

《最終、手段?》

《……ふっふっふっ。こんなこともあろうかと、セシリー様の魔法道具にはある機能がついてあるのですよ》

《ええ!? 本当ですか!》

《しかも! なんと! 三つも!!》

《三つも!?》

《とはいいましても、一つ目の機能はこうしてセシリー様と連絡ができる機能、その名も『テレフォン』ですけどね》

《それでもあと二つもあるんですね!!》


 すごい! さすがエマ様だ!

 私の想定のはるか上を行く!


《では今こそ紹介してみせましょう、残り二つの機能を!!!》


 不適な笑みをもらし、エマ様は堂々と答える。


《二つの機能のうち一つ! それこそ》

「あのー、リリーちゃん?」

「ふぁい!?」


 慌てて振り返ると、訝しげにたたずむフィルがいた。

 彼は私の手元を見て、首を傾げる。


「それって、確かこの前の舞踏会でリリーちゃんが着けていた宝石だよね? そんな鬼気迫った顔で見つめてどうしたの?」

「えーっと、その、で、デート成功の祈願をしていました、とか……」

「祈願なんて、そんなことしなくても大丈夫だよ。だって」


 彼はそっと私の手を包み込み、微笑む。


「君と出会えただけでも、僕は嬉しいからね」

「ひ、ひいっ!」


 フィルがくさいこと言ってる! 


 思いっきりびびっている私をみて、フィルは楽しそうに笑う。


「ふふっ、そんな悲鳴上げなくてもいいでしょ? もう、リリーちゃんは本当に面白いね」

「面白いだなんて、そんな……。ちょ、ちょっと宝石に傷がついている気がしたので、それを確認しますね」


 後ろを振り返り、宝石をじっくり眺めているふりをしながらエマ様に助けを求める。


《エマ様っ! とりあえず一番使い勝手のよさそうな機能を教えてくださいっ》

《わ、わかりました。それでは、わたくしの後に続いて、心の中で呪文を叫んでください》

《分かりましたっ》

《いきますよ、せーのっ『オーディエンス』!》


 『オーディエンス』と、心の中で叫ぶ。


 すると、突如、頭の中に無数の声が響きはじめた。


(な、なにこれっ)


 朝市の真っただ中にいるような、いや、それよりも何倍もうるさい。

 あたりをキョロキョロと見渡すも、変わりなくのんびりとおしゃべりをする程度だ。


《エマ様、これって……?》

《これこそ宝石の力の一つ、『オーディエンス』です! 使い方を説明しますね。まずは、宝石に質問をしてみます。今回は『夜のデートで、予約をしなくても入れそうな場所はどこですか?』と聞いてみてください》


 エマ様の言う通りに質問をすると、宝石がちかちかと光出した。


《宝石が点滅していますよ》

《正常に動いている証拠ですね。その宝石は今、近くにいる人たちの心の中に先ほどセシリー様が問いかけた質問を聞いています》

《え、そうなんですか。ですけど、周りの人たちは変わりなさそうですけど……?》

《心の中に聞いているだけですので、聞かれている方々からすると自問自答しているだけだと思い込んでくれます》

《へえ、すごいですね》

《点滅が終わると、周りの人からの回答の中で、一番支持を得られた答えを宝石が教えてくれます。その答えをフィル様にそのままお伝えすればオッケーということです!》

《なるほど……》


 学校の試験時に使えそうな魔法道具だが、一般生活では使い道がなさそうな……。


 なんて思っていると、ようやく宝石の点滅がなくなった。


 後は回答を待つばかり。焦る気持ちを抑えて待っていると、


「どう? 傷、ついていた?」

「へ!?」

 

 いつの間にか、フィルが回り込んでこちらを覗きこんでいた。


「もしリリーちゃんが気になるなら、宝石店にでもいく? 見てもらえるかも」

「だ、大丈夫そうです! 気のせいだったんで!」

「それなら宝石店はよらなくて大丈夫そう?」

「ええもちろん! はい!」

「そっかそっか。じゃあ、どこいこっか」

「それは……」


 と、その時。頭の中にある単語が浮かんだ。


(これね! エマ様が言っていた回答ってのは!)


 早く言わなくては。焦った私は言葉を確認せずに、すぐに口に出した。

 そして――。


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