特殊な鉱石
「――その龍王の娘のことはバラム会長に言ったのかい?」
シモンはシュウゴの全身を見回し、隼の簡易的なメンテナンスをしながら問う。
「いや、今回は言ってない」
「なんでだ? 後で問題にでもなったら面倒じゃないか?」
シモンが理解できないというように顔をしかめて首を傾げるが、シュウゴは迷うことなく横へ首を振った。
「ニアの見た目は、そこら辺の女の子となんら変わらないし気付かれることはないと思う。それに、メイのときのことを考えると、また無駄な混乱を生みたくない」
本音だった。いくら理解を得られるとしても、キジダルのように保守的な人間は必ず竜人との共生に反対してくるだろう。そうなると良くない噂が流れる危険性があり、ニアも嫌な思いをすることになる。シュウゴはどうしてもそれを避けたかった。
「はぁ。そういうもんかねぇ――ほいっ、目視点検完了。結構激しい戦いだったって言ってたけど、意外にダメージは深くないな。さすがはナーガの鱗と蓄電石だ。とはいえ、新しい鉱石を装甲の強化に使うなら、性質の解析をするために時間をもらうよ」
「ああ、それで構わない。よろしく頼む」
シュウゴは期待に満ちた声で答えると、隼をスペアに交換しシモンの鍛冶屋を去る。
後日、シュウゴの渡した鉱石の性質が判明した。数は全部で三種類。雷を受けて光を発する黄土色の『エレキライト鉱石』、雷を受けて熱を発する橙色の『ジュール鉱石』、そして特に性質は持たないが、今まで発見された鉱石の中で最硬度を誇る茶色の『アース鉱石』だ。シモンがなぜそんな性質を発見できたかというと、隼へ打ち直す前に稲妻の帯電に耐えられるか試験をしたおかげだ。
つまり戦闘時、隼には雷魔法を収束させるため、エレキトライト鉱石とジュール鉱石は強化に使えず、アース鉱石のみでの強化となった。
それからシモンは、新しい鉱石の性質詳細を情報屋に売り、情報屋は広場の掲示板に公開。それにより、鉱石を求めて商人たちが多くのクエストを発注し、竜の山脈への行き来は活発になる。
ある日の夜……もう深夜の時間帯。シュウゴは補強の完了した隼と共にシモンから返却された、『エレキライト鉱石』と『ジュール鉱石』を一かけらずつ持って広場のベンチに腰掛けていた。
悩みに眉を寄せながら、深いため息を吐いている。
「う~~~ん……」
なにかが思い浮かびそうなのに、あと少しというところで出てこない。そんな歯がゆい状況で、寝ようにも寝れなかったのだ。
巷では雷魔法によって発熱、発光する石はほんの一瞬だけ人々の関心を集めた。しかし、雷魔法で発熱したところで炎魔法がある。発光したところでフラッシュボムやランタンがある。すぐに大した有用性がないと判断され、二つともただの珍しい石というだけのものになってしまった。
「もったいないよなぁ……」
シュウゴはそう思い、なにかに使えないかと必死に思考を巡らせた。しかし、中々その糸口が掴めず、ぼんやりとした前世の記憶となにかが結びつきそうな予感はしたものの、最後のひらめきにまでは至っていなかった。
シュウゴは右手に黄土色のエレキライト鉱石、左手に橙色のジュール鉱石を持ち、キラキラと光るそれらをジッと眺め深いため息を吐いく。