魂の輝き
(にしても、どうするか……)
下では、ハナが二刀の小太刀を振るい、数々の触手を斬り落としている。
切断された触手は以前の青白い手と同じで、うっすらと消え失せていく。
ハナは隙を見て跳び退いた。ある程度距離をとれば触手は襲ってこない。
シュウゴもハナの隣に着地し、ニアを降ろす。
「シュウゴくん、大丈夫!? とりあえず今はこれで我慢して」
ハナはすぐにポーチからポーションを取り出し、シュウゴの口に運んだ。
全て飲み干すと傷の痛みがだいぶ治まる。
シュウゴが礼を言うと、ハナはニアに目を向けた。
「ニアちゃんは大丈夫?」
「ごめん、なさぃ……」
ニアは俯き消え入りそうな声で謝る。今にも泣きそうな顔だ。
ハナはそんなニアの頭を優しく撫でた。
「気にしないで。助けたのに謝られたら、シュウゴくんも困っちゃうよ」
「うん~」
ニアは感極まったようにハナに抱きついた。
ハナはよしよしと優しく背を撫で続ける。
シュウゴは二人の前に立ち、ゆっくり迫って来る異形の者を睨んだ。
「あれを倒す方法はあるの?」
「分からない」
絶望がゆっくりと近づいて来る恐怖を、シュウゴはまざまざと感じていた。
敵の狙いは自分。ならばせめてニアとハナは助けたい。
自分が囮になって敵をこの山から引きずり下ろす。その覚悟を決めた直後――
――ギャオォォォォォンッ!
勇ましい咆哮が山脈に響いた。
「……父上?」
ニアが呟く。
直後、上空に蛇竜の姿を象った蒼黒の炎が現れ、山全体を熱気が覆った。
ゆらゆらと揺らめいている炎はとぐろを巻き、長い炎の体は山頂の方から伸びていた。
蒼黒の炎が厳かに礼を言う。
「シュウゴ、娘を救ってくれたこと、心から感謝する」
ドラゴンソウルの声だった。
彼はニアへ目を向け怪我がないことを確認した後、異形の者へ体を向ける。
そしてその後ろで横たわっているアークグリプスに語り掛けた。
「我が友よ立て。そなたの竜種としての誇り、我が戦の前に示してみせよ」
すると、アークグリプスはバッと目を見開いた。
そしてゆっくりと立ち上がってみせる。
傷が痛むのか表情を歪めるが、それでも王のために立ち上がった。
「クヲォォォ……」
彼はゆっくりと羽ばたいて異形の者の横を通り、シュウゴたちの前へ降り立つ。
彼はシュウゴたちへ短く吠え、背を向けた。
「グリプスは、乗れ~って言ってるよ?」
ニアにはアークグリプスの言いたいことが分かるらしい。
「……分かった。乗らせてもらおう」
ニアは頷き最初に乗る。
シュウゴとハナもその後に続いて乗ると、アークグリプスは飛び立った。
それを見届けたドラゴンソウルは満足したように言う。
「さすがは我が友だ。ニアたちをよろしく頼むぞ」
ドラゴンソウルは身に纏う炎の勢いを強めた。
ごうごうと燃え盛る蒼黒の炎は、龍王の魂の輝きそのもの。
しかし異形の者は、相手が誰であろうと歩みを止めない。
「天候を操る力は肉体と共に失った。だが貴様を討つ程度、我が魂の熱量だけで十分だ」
ドラゴンソウルの眼前に蒼炎が集まっていく。
蒼炎の塊はどんどん大きくなっていき、熱量を増大させる。
空を支配する圧倒的な熱量に、敵はようやく足を止め空を見上げた。
その直後、龍王の怒りの一撃が放たれる。
――ドゴオォォォォォォォォォォンッ!
それはもはや放射でなく爆発だった。山脈全体を太陽の如き熱量が覆う。
「くっ!」
シュウゴたちへ襲い掛かる熱気は、アークグリプスが翼でしっかりと防いでいた。
しばらくして熱気の勢いが収まると、ニアが羽の間から顔を出し下を覗いた。
「父上、強い~」
「ああ!」
シュウゴも下を見てニアの弾んだ声に頷いた。
岩地は火の海で、未だにメラメラと燃えているが敵の姿がどこにも見えない。
ハナが信じられないといったように唖然と呟く。
「倒した、の?」
「多分ね」
シュウゴたちがしばらく勝利の余韻に浸っていると、応龍の姿をしたドラゴンソウルの炎は次第に弱まり、儚く消えた。
「父上のところに戻ろ~?」
ニアの間延びした声に応え、アークグリプスが山頂へと飛翔する。