竜の記録
「――いっつつ……」
シュウゴが頭痛に顔を歪める。
彼は翌日、二日酔いで吐き気に耐えながらも領主の館へ来ていた。
別にヴィンゴールに会おうというのではなく、一階にある書庫で目的の文献を探しているのだ。
――竜種がそんなに気になるなら、領主様の館に行くといい。一階の書庫に竜種のことをまとめた文献が残っているだろうからな――
昨夜、いつのまにか遅くまで飲んでいたシュウゴは、おぼつかない足どりで立ち上がり、ヒューレに別れを告げた。
そのとき、彼が文献のことを教えてくれたのだ。
目が覚めても興奮が冷めなかったシュウゴは、早速調べようと意気込んでいる。
酔いも覚めていないので、気分は悪いが……
結局、自分で探しきれなかったシュウゴは、受付の女性事務員に探し出してもらった。
「あっ、これです! ありがとうございます!」
シュウゴは思わず大声で礼を言う。
「いえ。ここではお静かに、お願いします」
事務員は突き放すような冷たい声で注意すると受付に戻っていった。
シュウゴはしょんぼりと肩を落とす。
「す、すみません……」
シュウゴは「まさか酒臭いのでは!?」と心配になるが、ここまで来てしまっては仕方ない。
なにはともあれ求めていたものは見つかった。
シュウゴは書棚の横の椅子に座り、早速ページをめくり始めた。
――かつて、この大陸には強大な力を持つ竜の種族がいた。
竜は大きく分けて四種類。蛇竜、翼竜、鳥竜、竜人だ。
蛇竜は文字通り蛇のように長い体躯で強力な神通力を宿す種族、翼竜は背中に大きな翼を持つトカゲ型で肉弾戦に強い種族、鳥竜は翼竜に似た姿をしているが硬い竜鱗で覆われておらず身軽で機動性に特化した種族、そして竜人は人の姿をしており戦闘力は低いが知性は最も高い種族である。
個体の多い鳥竜は、主に渓谷や森林などに生息し、竜人は都市や村などで人に紛れ生活していた。
個体数の少ない蛇竜と翼竜は山の頂上付近で静かに暮らし、その中でも竜の王が君臨する山こそが『竜の山脈』と呼ばれた。
北東の端にある大陸で一番高い山だ。
頂上には全ての竜種の王である天空の覇者『応龍』が座し、玉座の守護者『アークグリプス』が頂上へ続く山道を守っている。
アークグリプスは鳥竜最強のクラスAだ。
上半身は鷲で剣のような鋼の翼を持ち下半身は獅子。
神聖な領域を穢そうとする愚者に容赦なく襲い掛かる。
応龍は天候を司る者とされ、『クラスU』と認定されていた。
(――ん? クラスU?)
シュウゴのページをめくる手が止まる。
初めて聞くクラスだった。
よく見ると、クラスUの文字の横に注釈のマークがついており、別の解説ページで説明されていた。
クラスUとはクラスS以上の力を持ち、尚且つその力を計り知れない種別につけられるクラスだ。
大抵はその存在を確認されていないものが多く、主に天空神ウラヌスや海王神ネプチューンなどの『神格』、魔王サタンや冥府の魔神ナベリウスなどの『魔神』、天空の覇者応龍や神龍リンドブルムなどの『竜種』の最上位、そして無限に成長を続ける異形の魔物が該当する。
「――へぇ~」
すっかり読み入っていたシュウゴは、頬を緩ませる。
見たこともない強者たちをクラス分けしていることが、ファンタジー世界ならではで面白い。
シュウゴはふと鵺のことが頭に浮かんだ。
(……もしかしてあいつ、クラスUってこと?)
そう考えた途端、シュウゴの全身に鳥肌が立った。
神にも匹敵する存在と戦っていたのかと戦慄する。
故に、鵺を野放しにしてさらなる成長を許していることが、どれだけ危険なのかを理解した。
この手の文献は読み物として読めば面白いが、この世界においては自分たちの存亡に関わることであるため心臓に悪い。
結局、文献は最後に凶霧発生以降、竜種が他の種族たちと同様に姿を消し、それから彼らの姿を見た者はいないと締めくくられていた。
「やっぱり結論は変わらないかぁ……」
シュウゴはため息を吐く。
受付から事務員が睨んできていたので、慌てて文献を元あった棚に戻しに行った。
文献はおまけとして、最北西の地に封印された『覇王龍ミドガルム』について少し触れていたが、今は興味がない。





