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十年にわたる戦い

 シュウゴがカムラの東にある家へ戻ると、日はすっかり暮れていた。

 ここは一般市民の家が集まっている住宅街だ。

 とはいえ、別に何階層もある建物が集まっているわけではなく、一階建ての屋根つきボロ家が無数に集まっているだけだ。

 中は四畳~六畳といった広さで、シュウゴの家は六畳だ。


 シュウゴは近くの公衆浴場で汗を流すと、しばらく素材や情報の整理をしてベッドに横たわった。真っ暗な天井を仰向けに見ながらポツリと呟く。


「モンスターイーターか」


 昔、大好きだったゲームだ。

 今でも数多くのモンスターや武器を思い出せる。

 そして似ていると思った。この世界も。

 だからこそ、有用なアイテムや武装のアイデアが浮かんできた。

 それも前世での技術者としての経験と、この世界で学んだ魔術の知識があったからこそ。


「……天職、なのかもな」


 絶望しかなかった心には今、少しばかりの喜びと興奮が湧いていた。

 懐かしい感覚だ。

 思えば、誰だって新しいことには苦労するもの。そこで決して諦めず努力を続けることで、それまでの自分の知識や経験が複雑に重なり、新たな能力に目覚める。

 シュウゴは今、成長し新たな自分と向き合っているのだ。


「いつかきっと、帰れるさ。それまでは――」


 シュウゴは希望を抱いて明日へと眠る。


 ――――――――――


 十年前、両腕両足を失ったシュウゴは、孤児院のシスター『マーヤ』のつてで鍛冶屋に義手、義足を作ってもらうことで、かろうじて最低限の生活ができるようになった。

 それでも、見知らぬ世界に一人で、人類が滅亡しかけているという絶望は変わらない。

 シュウゴは心折れそうになりながらも、様々なことを必死に学んだ。

 この世界のこと、他種族のこと、魔法のことなど様々。孤児院の近くにあった教会には、あらゆる書物が保管されており、シュウゴは一心不乱に読み漁った。

 そんなあるとき、たまたま孤児院の使いで来ていた商業区で、若い鍛冶屋『シモン』との出会いがシュウゴの魂を再燃させた。

 異世界の『ものづくり』に魅せられたシュウゴは、武具の製造・強化方法を一心不乱に学び、ある設計図を完成させる。


「――おいおい、なんだこりゃぁ……あんた天才かよ」


 若かったシモンは、設計図を見て笑いながらも鍛冶屋としての情熱を瞳に灯した。


「とんでもなく奇抜だし、この製法通り作ったとしても、上手く機能する保証がどこにもない。けど、それでも作りたいってんなら協力してやんよ」


 シモンはニヤニヤと笑みをこぼしながら、必要な素材をメモ紙に走り書きしシュウゴへ渡す。

 その内容を見たシュウゴは息を呑んだ。

 鉄鉱石、高ランクのミスリル鉱石、カトブレパスの外殻と頭蓋骨、カオスキメラの牙、イービルアイの瞼、炎、風、氷の三種の杖、そしてそれぞれが多数。


「そ、そんな……」


 開いた口が塞がらず、それ以上は声が出ない。

 とんでもない量と高品質の素材が必要だった。


 ……長い戦いだった。


 協力者など見つかるはずもなく、シュウゴ一人で街の外に出てひたすら素材を集めた。

 高ランクのミスリル鉱石など、そうそう見つかるものではなく、外を彷徨っている『アビススライム』が食事で体内に取り込んでることに賭け、ひたすら狩るしかいない。

 町でかき集めた情報を整理した末に辿り着いた可能性だ。スライムの体内からアイテムを入手できる確率が1%未満であろうと、それ以外に方法はない。


 魔物の素材収集についても困難を極めた。

 カトブレパスやイービルアイなど、街の討伐隊ですら複数のパーティーで挑んでようやく倒せるレベルで、シュウゴ一人に勝てるはずもない。

 だから、討伐隊が倒し、素材回収後の捨て置かれた死骸を狙った。

 特に、魔物を倒したものの素材回収する前に討伐隊が全滅したときは幸運だった。

 そのぶん何度も死にかけたが、百回を越えてからはもう数えていない。


 杖は魔導書のようなもので各系統の魔術を内包しており、それをもってすれば人間でも魔法が使える。

 それらはバラム商会の商人が取り扱っており、魔物のコアや魔術活性素材を凝縮して製造するため、とてつもなく高価だった。


 ……長いこと戦い続けた。


 素材を得るため、金を得るため、魔物から逃げ回りながら無様に生き抜いた。

 ゲームのように巨大な剣を満足に振るうことはできず、高速ステップのような俊敏さもなく、高く飛び上がって敵の急所を狙うことも叶わない。

 シュウゴは死にかけるたびに思った。

 モンスターイーターのようにもっと軽々と剣を振るい、高速で移動、跳躍できれば……と。

 しかし今のシュウゴにとって、これは紛れもない現実だった。


 ただひたすらに知識を蓄え、異世界の未知の技術で試行錯誤し、戦場で感覚を研ぎ澄ますことで心も体も生まれ変わり、隼が完成した時には十年が経っていた。

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