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魔物を内包する者

 鵺が放った高熱量の光線は、その射線上を無慈悲に焼き払っていた。

 地面の魔法陣もかき消え、深い溝が出来ている。

 シュウゴはメイを降ろすと、彼女をかばうように前へ立った。

 デュラもなんとか攻撃から逃れ、体勢を立て直している。


「お兄様、さっきのはもしかして……」


「ああ、間違いない。なぜあのサイズなのかは分からないが、目玉は全てイービルアイのものだ」


 鵺の左腕にイービルアイの目玉が密集していたからこそ、あの短時間の充填でビームアイロッドの最大火力を超える光線を放てたのだ。

 鵺は特に動揺した様子もなく漆黒の左腕を外套の内側へ引っ込める。


「どうやら貴様らを見くびっていたようだ。妖刀『反骨鬼(はんこつき)』」


 次は右腕を外套から出す。今度の腕は明らかに人間のものだ。

 どこに隠していたのか、禍々しいまでの瘴気を纏った刀を握っていた。

 一番最初に動いたのはデュラ。


「っ!」


 盾を突き出し鵺へ突進する。

 妖刀を振り下ろした鵺の斬撃を受け止め押しのけると、ランスを無防備な鵺の左胸へ突き出す。

 流れるような技に、鵺も一本取られたかのように見えた。

 しかし離れていたシュウゴには見えていた。鵺の外套の背の部分が大きく盛り上がっていたことに。

 そこから尾のような細長いものが勢いよく飛び出し、ランスの穂先を受け止めた。


「あれはサソリの尻尾?」


 シュウゴが目を見開く。

 そのゴツゴツした尻尾はダークブラウンの光沢を放ち、尾の先はサソリの尻尾に酷似した形状をしていた。

 デュラと鵺の力は均衡していたが、それもすぐに終わる。

 突如、鵺の左肩に着いていたヤギの頭蓋骨の口が蒼い炎を溜めだしたのだ。

 それはまさしくカオスキメラの技。


「くっ、デュラ!」


 シュウゴがバーニアを噴射し鵺へ接近していたが間に合わず、デュラは蒼炎のブレスで吹き飛ばされた。

 間髪入れずシュウゴが鵺に斬りかかる。


 ――キイィィィンッ!


 鵺は冷静に妖刀で受け止めた。


「なぜだ!? お前はなぜ、他の魔物たちの力を持っている? ここで一体なんの研究をしていたんだ!?」


 シュウゴは鵺と斬り合いながら叫ぶ。


「答える義理はない。ここで死ね」


 サソリの尾を振り下ろされるが、シュウゴはバーニアを噴射してスライドし回避。

 さらにショックオブチャージャーで足に稲妻を溜め、一時的にスピードを上げる。

 大剣を尻尾に受けられ、妖刀をアイスシールドで受け、両手が塞がったところで獅子の火炎ブレスを放たれるが、横への瞬発噴射で華麗に回避。


「メイ、今だ!」


 シュウゴが叫んだ直後、最大火力の光線が放たれた。

 その狙いは鵺の胸部。


「喰らえ反骨鬼」


 鵺が淡々と呟いた瞬間、妖刀が妖しく揺らめいた。

 そして、その刃で真正面からレーザーを受け止め光を拡散させる。

 それでもレーザーの火力が強く、妖刀の刃が溶ける方が先のはずだった。

 だが妖刀の柄に鵺の指が溶け込み体の一部と化すと、次第に妖刀の禍々しいオーラが増大していき、最終的にはレーザーを完全に受け切った。


「なんだあの刀は……」


 シュウゴが唖然と呟くと、鵺が答えた。


「反骨鬼。使い手の命を吸い取り力を増す妖刀だ。だから――使った命の分、貴様から補充させてもらうぞ――」


 ――グギャオォォォォォン!


 鵺の体内からおぞましい野獣の叫び声が発され、外套の内側から黒くドロドロの粘液を滴らせた顔のない魔獣が飛び出した。

 それは首だけが鵺の内側から伸び、大きな口を開けてシュウゴを飲み込まんとしていた。

 あまりの急展開に付いて行けず呆然としていたシュウゴは反応が遅れた。


「しまっ――」


 慌てて右へバーニアを噴射したものの、間に合わず右腕を肩からまるごと食われた。

 同時に右脇腹も食いちぎられる。


「――ぐわあぁぁぁぁぁっ!」


 シュウゴは食われた腹を左手で押さえ、絶叫し床を転がった。


「お兄様ぁぁぁぁぁ!」


 メイが再度杖に充填し始めるが、許す鵺ではない。

 いつの間にか鵺は三本の尻尾を地面に刺しており、メイの足元が砕けると同時に下から襲いかかった。


「貴様も死ね」


「っ!」


 三本の尻尾がメイに巻き付き強く締めあげると、その腹に尻尾の先を突き刺した。

 尻尾はメイの体内に猛毒を流し込む。


 ――ダンッ!


 地を蹴りデュラが鵺に跳びかかるが、鵺は見向きすらしない。

 デュラが至近距離まで迫った次の瞬間、鵺の外套から無数の蛇が飛び出し、デュラを壁際まで押し飛ばした。

 そのまま壁に押し付ける。

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