合成獣の謎
まずは中心部の方へ引き返していくシュウゴたちだったが、どこからか妙な気配を感じた。
シュウゴは立ち止まり背後のデュラたちに振り向く。
「なんだろう、この感じ……」
そう語りかけるがメイは首を傾げた。
「どうされました?」
メイはなにも感じないようだ。
しかしデュラの方はシュウゴの視線を受けた後、右へ視線を向けた。
そっぽを向いたというわけでなく、そこになにかがいるという意思表示だ。
「デュラも感じたのか。あっちか?」
シュウゴが問うとデュラは首を縦に振る。
次のシュウゴの行動を予測したメイが口を挟んだ。
「お兄様、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、だいぶよくなったよ。それに、確かめたいこともできたんだ」
「……分かりました」
メイはそれ以上なにも言わず、シュウゴたちは中央部から離れ西へと向かう。
その間、回遊している魔物は一体もいなかった。
恐らく、ダンタリオンの周囲では本能的に行動できないのだろう。
シュウゴはもう一つ気付いたことがあった。
「なんでカオスキメラが……」
至るところにカオスキメラの死骸があったのだ。激しく争った跡があったり、衰弱して倒れていたりと、死因は各々異なるがダンタリオンの仕業ではないようだ。
ここまででも既に五体は見ている。同種のクラスBモンスターが一か所に集まっているなど聞いたことがない。
ダンタリオンとは別の不気味さを感じながら、シュウゴたちはある空き家に辿り着く。
「ここか」
シュウゴが確認すると、デュラは頷く。
シュウゴはためらいなく家の扉を開けた。
中に入ると殺風景で灰色の狭い部屋に、古びた書物や僅かに液体の入った瓶などが散乱していた。
当たり前だが長いこと使われていないのが明白だった。
壁際の服掛けの下に落ちていたのが魔術師の着るようなローブであったことから、ここが魔術師の家だと推測する。
メイが煤だらけの釜戸の前で首を傾げた。
「魔物に襲われたんでしょうか?」
「分からない。けど確かに、ダンタリオンが現れたことで慌てて逃げたとするには無理がある」
シュウゴが一歩後ろに下がり今一度部屋全体を見回してみる。
すると、ボロボロにひび割れたテーブルの上に一枚の紙を見つけた。
「こ、これはっ!?」
シュウゴが突然大声を上げメイが駆け寄る。
そしてメイも紙に描いてあった線画を見て目を丸くした。
「これは先ほどの?」
そこに描かれていたのは、獅子の上半身とヤギの下半身に六又の蛇を尻尾として生やした魔獣。
「間違いない……カオスキメラだ」
戦ったシュウゴだから分かるが、かなり精密に描かれている。
(なにかがおかしい)
シュウゴの背筋を正体不明の怖気が這い上がる。
カオスキメラはそもそも、凶霧発生以降に誕生した魔獣のはずだ。
この家の惨状を見るに、凶霧が発生してからカオスキメラを観察し描く余裕があったようには到底思えない。
それに、この家に辿り着くまでに見たカオスキメラの死骸についても謎のまま。この家の主と無関係とは思い難い。
シュウゴが難しい顔で考え込んでいるとメイが室内をキョロキョロ見回し声を上げた。
「ところで、デュラさんはどこへ行ってしまったんでしょうか?」
シュウゴもようやくデュラがいないことに気付く。
「あれ? 本当だ。探索に集中しすぎて気付かなかった」
シュウゴは苦笑しメイと共にデュラの名前を呼んでみる。
――ガタンッ!
戸が閉まるような音が響き、部屋の中央にあったテーブルの下からデュラが這い出てきた。
「うわっ!? って、デュラ? そんなところでなにしてんのさ?」
シュウゴが腰を屈め尋ねると、デュラは自分の背後を指さした。
「暗くて良く見えないな……」
「隠し扉ですか?」
シュウゴが目を凝らしてテーブルの下を覗き込んでいると、メイが横から口を挟んできた。
それで合ってたらしくデュラがコクリと頷く。
「凄いなメイ。俺はここからでも見えなかったのに」
「いえ、私はどうやら夜目が利くみたいなので」
さすがはアンデットと言ったところか。
シュウゴは隠し扉の奥に進むべきか迷った。
その先には恐らく自分が知りたい情報が待ち構えていることだろう。
ただ、これ以上は危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。
「……二人とも……行こう」
それでもシュウゴは覚悟を決め先へ進む。