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奇怪な鍛冶屋

「――おっ!? シュウゴじゃないか!」


 人気の少ない通りの端に差し掛かったところで呼び止められ、シュウゴが「ああ」と声の主の元へと歩いていく。

そこは鍛冶屋だった。

 錆付いた小さな屋根の下には数々の鉱石や装備品素材、ハンマーなどの工具類が雑多に散らばり、奥の鋳鉄炉(ちゅうてつろ)が燃え盛る炎によって熱気を充満させている。


 手前の背の低い椅子に座って休憩している優男が、この鍛冶屋の主でありシュウゴの親友でもある『シモン』だ。

 全身を袖の短い灰色の法衣と、厚めの包帯のような布を頭や口元に巻いた奇怪な恰好をしている。

 鍛冶屋のわりに体が細く穏やかな性格で、不思議な雰囲気を纏った男だ。


 シモンはシュウゴが屋根の下に入ってから、声を抑えて問う。


「新装備の調子はどうよ?」


「想像以上の性能だったよ。討伐隊と協力してカオスキメラを撃退することができたんだ」


「おぉっ、凄いじゃないか!」


 シモンが興奮して立ち上がると、シュウゴは頷き頭を下げた。


「ありがとう。シモンが俺の設計通りに完成させてくれたおかげだ。これからも色々と協力してほしい」


「なに水臭いこと言ってんのさ。そんなの当然じゃないか。君が『隼』の設計図を見せてくれたときから僕らは一蓮托生。それに、君が思いつきで売ってくれる設計図にハズレはない。おかげ様で商売繁盛だよ」


 シモンが満更でもないというように朗らかに笑う。

 彼の言う通り、シュウゴは多くの設計図をシモンに売ってきた。

 元々は明日を生きる金を得るためだったが、『フラッシュボム』や『浄化マスク』など、いつの間にか広く使われるような汎用品となっていた。

 そしてシモンは設計情報を一切隠し、新商品として商人たちに売ることで多大な利益と強い立場を築いていた。


 とはいえ、彼が望んだのは競合との不干渉だ。だから今も、商業区の片隅でコソコソと製造を続けている。

 シュウゴはシモンのしたたかさを頼もしく思いながら、新たな案件を持ちかけた。


「そうそう、また新しい武器の案を思いついたんだ。構想がまとまり次第、相談させてもらうよ」


「本当かい!? それはぜひとも期待させてもらうよ。ところで、念のために装甲の状態を確かめておこうと思うんだが」


「ああ、頼みたい。いくらかかる?」


「おいおい、見くびってもらっちゃ困るよ。そんくらいタダでやるさ」


「助かるよ」


 シュウゴは自分の貧乏性を浅ましく思いながらも安堵する。

 背のグレートバスターは、刃に布を巻いて壁へ立てかけ、シモンに促されて腰と肘のバーニア、ブーツ、左腕の籠手を外していく。

 それらを金属製で縦長の台へ置くと、シモンは腕や足の損傷の有無を確かめ始めた。

 目視だけでなく、可動確認や強度の確認などをゆっくり確実に行う。


「……うん、大丈夫。ほとんど性能低下はない。さすがはミスリル鉱石やカオスキメラの牙で強化した装甲だ。苦労したかいがあったね」


 シュウゴは苦笑しながら頷く。


 カオスキメラは二年前、討伐隊によって一体が討伐された。数十人の部隊が一斉に立ち向かい、多くの犠牲を出しながらも討伐に成功。

 しかしその直後、周囲をクラスCモンスターたちに取り囲まれた。カオスキメラとの戦いで力を使い果たしていた討伐隊はやむなくその場を放棄し、命からがら逃げ帰った。

 持ち帰れた素材は非常に少なかったという。


 当時、その光景を遠方から盗み見ていたのがシュウゴだ。

 この機を逃せば次はないと思ったシュウゴは、討伐隊が退いた後、フラッシュボムやノイズボムをありったけ使ってモンスターの目をくらまし、命からがらカオスキメラの牙と角を入手したのだ。


(懐かしいなぁ……今思えば、あんなの命がいくつあっても足りない)


 シュウゴが目を閉じ深いため息を吐いていると、シモンは背の低い丸椅子の上に腰を下ろした。


「それじゃあ、剣とバーニアは今日と明日で見ておくよ。君はゆっくり休んで、また入用になったら来てくれ」


「よろしく頼むよ。あっ、それと、これで装甲の補強もしてもらいたいんだけど……」


 シュウゴは、討伐隊から礼だということで譲ってもらった、カオスキメラのヤギの角をシモンへ渡し店を出る。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致しますm(__)m

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