ショックオブチャージャー
ハナとデュラは善戦しているかのように見えた。
縦横無尽に動き回り、本能に任せて襲い掛かる。
そこに緻密な作戦などなく、ただただランダムに動き回っていることが唯一ベヒーモスに渡り合えている理由だった。
しかし、いつまでも上手くいかないからこそのランダム。
冷静に攻撃を受け流していたベヒーモスは、攻撃の合間に溜めていた稲妻を開放する。
「っ!」
ハナとデュラは、見えない壁に弾かれたかのように吹き飛ばされ、地面を転がる。
ベヒーモスはさらに追撃を見舞う。
狙いはデュラ。
地面を転がって倒れたデュラの真上から叩きつけるように角を突き刺した。
「デュラくん!」
デュラのアーマーはまるで紙のように容易く貫かれ、ベヒーモスの角に持ち上げられる。
丁度腹の位置で刺されているが、デュラに生身がなかったことが不幸中の幸いか。
――ジ、ジジッ、ジジジジジッ!
ベヒーモスはデュラを頭上高くかかげた状態で雷を収束し始めた。
デュラは次になにが起こるか察知し、手足をジタバタさせるが、悪あがきにもならない。
「くっ……」
ハナは悔しさに奥歯を強く噛む。
たとえデュラであっても、至近距離で電撃を受ければ最悪の場合、粉々だ。
ハナが立ち上がったときには、収束はほぼ終わっていた。
彼女は絶望しながら、また仲間の最期を見届けるしかできない。
「もう……やめて……」
…………………………
「……俺の仲間を、離せぇぇぇっ!」
――ズバアァァァンッ!
突如、雷鳴とともにベヒーモスの後方から電撃が放たれた。
それは稲妻を纏った緑の斬撃。
直撃したベヒーモスは、その巨体を吹き飛ばされた。
デュラは角から解放され地面に落ちる。
「な、なに?」
ハナが驚愕に目を白黒させながら背後を振り返ると、そこにはシュウゴが立っていた。
体にはベヒーモス同様に緑の雷を纏い、右肩には高熱量を放出した後のグレートバスターを担いでいる。
彼はゆっくりハナの横まで歩み寄った。
「シュウゴくん! よく無事で……でも、どうして?」
ハナが興奮したようにシュウゴへ詰め寄ろうとするが、シュウゴは大剣を地面に刺し右手を突き出して制した。
デュラも立ち上がり、大急ぎでシュウゴの元へ駆け寄って来る。
腹に大きな穴が空いた状態で走るというのは、どうにもシュールだ。
メイも後ろから合流し、シュウゴは自分になにが起こったのか説明を始める。
「どうやら、俺が採った鉱石は蓄電の性質を持っていたらしい」
シュウゴは、ははっと苦笑する。
三人とも「ちくでん?」と疑問符を浮かべていた。
「この装甲と剣に使った、性質不明の鉱石が電撃を吸収したんだ。おかげさまでなんとか一命を取り留めることができたよ。それどころか、ベヒーモスの電撃を蓄積したおかげで、今は力がみなぎってる」
「なんてデタラメな……」
ハナは驚いたような、呆れたような表情でボーっとシュウゴの体を見回す。
――バチッ! バヂンッ!
彼らが話している間に、ベヒーモスは体勢を立て直し、角への帯電を終わらせていた。
強敵の出現に憤怒の眼光を強めると、シュウゴだけを睨みつけ駆け出す。
「後は俺がやる。皆は待っててくれ!」
シュウゴも決着をつけるべく、ベヒーモスへと駆け出した。バーニアを使わずとも、そのスピードは稲妻の如く。
「はぁぁぁぁぁ!」
「グルアァァァァァ!」
極限の力が二つ、稲妻の渦となって正面衝突する。
巨体をものともせず、その筋力を活かして俊敏に動き、重い一撃を次々繰り出すベヒーモス。
縦横無尽に駆けまわり、大剣を軽々と振りまわしながら、雷纏った斬撃を乱れ打つシュウゴ。
そのぶつかりあいは、まさしく頂上決戦だった。
息を呑むハナたちには見守ることしかできない。
「お兄様、どうか勝って」
「シュウゴくん、私とテオの分まで頑張って!」
――ガシャンッ!
三人の祈りが届いたのか、シュウゴはさらに力を増し、次第にベヒーモスを翻弄していく。
やがて、シュウゴの渾身の一撃がベヒーモスの左顔面に直撃。
「ギャオォンッ!」
叫ぶベヒーモス。その左角は折れ、閉じられた目から血が流れ出した。
ベヒーモスはその場で大きく一回転すると、後方へ大きく跳び退いた。
そして、ひときわ大きく吠えると、後ろ足のみで立ち上がり、両手を広げ、残った角に雷を収束し始める。
――ジ、ジジッ、ジジジジジジジジジジッ!
それに対し、シュウゴもゆっくりグレートバスターを頭上高くかかげた。
すると、刀身が緑色に輝き出し、雷が収束し始める。
――ジ、ジジッ、ジジジジジジジジジジッ!
「これでっ! 最後だぁぁぁぁぁっ!」
互いに、全力の電撃が放たれ、荒野を光で埋め尽くした。