ライトニングハウンド
力づくで糸を引きちぎり、驚くべきスピードで体勢を整えつつあるベヒーモス。
その背にランスを突き立てようと、デュラが跳び上がり上空から迫っていた。
機敏にそれを察知したベヒーモスは、あえて前方に身体を倒し尻尾を振るった。
あと少しというところで真横から剣の尾を叩きつけられ、デュラは吹き飛ばされる。だが――
「――もらった!」
ザシュッ!
シュウゴの大剣が無防備になった尻尾を斬り落とした。
「ギャオルゥゥゥゥゥッ!」
ベヒーモスは叫ぶと大きく跳び退き、追撃を見舞おうとしたシュウゴから距離をとる。
「ふぅ」
シュウゴは着地し息を整える。
シュウゴの視界では、ハナが太刀を拾い、デュラが立ち上がっていた。
ベヒーモスは余裕を失くしたようにガルルルと唸り、シュウゴを憤怒の瞳で睨みつけている。
そして、ベヒーモスが大きく跳び、シュウゴの頭上から前足を振り下ろす。
「皆、いくぞっ!!」
シュウゴはアイスシールドを展開し受け止める。
ハナが左側から、デュラが右側から飛び掛かった。
ほんの一瞬のうちに繰り広げられるのは、三対一の激しい攻防。
ハナの太刀は前足の爪で受け止められ、デュラのランスは角に弾かれる。
シュウゴが真正面から大剣を叩きつけようとしてもバックステップで回避される。
圧倒的なまでの攻防が幾度も、幾度も繰り広げられた。
決定打がない限り、激闘は続く――
「――お兄様!」
「っ! 二人とも下がれ!」
メイの凛とした声が後方から届き、意図を察したシュウゴがハナとデュラへ叫ぶ。
シュウゴの切迫した声に、二人は反射で跳び退いた。
シュウゴも跳び退きつつ、左腕をベヒーモスの顔面へと放つ。
それを叩き落そうとベヒーモスが前足を振り上げた直後、握られていたフラッシュボムが炸裂。
――パアァァァァァンッ!
「ちぃっ!」
シュウゴは目を閉じながら舌打ちする。
ベヒーモスもフラッシュボムが爆発する寸前で目を閉じていたのだ。
それだけではない。
攻撃モーションを中断せず、シュウゴの左腕を叩き落した。
その強靭な爪で内部の糸を引き裂かれ、左腕はもう操作不能だ。
だが、それも全て想定内。
目的であるベヒーモスの足止めは果たした。
「いっけぇぇぇ!」
白光に包まれた世界をさらに強い光が塗り替える。
最大出力のレーザーがベヒーモスへと迫っていた。
これで決まりだ。
誰もがそう確信した。
だが、そのとき誰も気付いていなかった。
ベヒーモスの両角に圧倒的な熱量が帯電していたことに。
「ガウゥゥゥゥゥッ!!」
ベヒーモスは目を開けると、真正面から直進してくるレーザーに両角の先、丁度中間ほどの位置を合わせて鋭い唸り声を上げた。
――ドオォンッ! ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
レーザーはベヒーモスの角で止まる。角の間で緑色の雷光が迸り、レーザーを阻んでいた。
「そ、そんな!?」
メイが杖を握りしめながら驚愕に目を見開く。
やがてベヒーモスの両角がエメラルドに眩しく輝き出し、電撃の光線を発生させてレーザーを押し返した。
そしてレーザーを完全に飲み込むと、電撃を拡散させメイへと降り注ぐ。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
「メイぃっ!」
襲いかかった無数の電撃にメイが倒れた。
麻痺でもしてるのか、うつ伏せに倒れた体は小刻みに痙攣している。
しかし、他人の心配をしている場合ではなかった。
ベヒーモスが身を屈めると、エメラルドに輝く無数の雷が宙を走る。
そして、極限まで帯電した角を天へと突き出した瞬間――
――ズバアァァァァァァァァァァンッ!
雷による大爆発が起こった。
その強烈な雷撃の圧力は、周囲のシュウゴたちに襲い掛かる。
「っ!」
シュウゴは大剣の刃を盾にし、吹き飛ばされないようバーニアを噴かす。
ハナは太刀を地面に刺し耐え、デュラは盾を地面に立て片膝をついている。
「……」
ようやく雷の激流が止むと、ベヒーモスはシュウゴたちへとゆっくり振り向いた。
その目は憤怒に赤く光っており、角は綺麗な緑光に輝いている。
全身には今にも弾けそうな雷を纏い、歩くたびに電撃を周囲へ伝播させた。