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因縁

 その日、ハナは廃墟と化した村の外れを歩いていた。

 以前、シュウゴが撃退したカオスキメラが再び現れたという情報があり、クエストを受けたのだ。

 特にカオスキメラに興味はなかったが、なんとなくシュウゴの顔が思い浮かび受けていた。


 ハナが歩いているのは村から出てすぐの荒野で、ゴツゴツと不格好で大きな岩が転がっている。

 その先は霧が濃くなり、討伐隊も未だに進めていない。

 以前であればまっすぐ進むと大規模な都市があったはずだが、霧の中では方向感覚が狂い思うように進めないようだ。


 ハナは歩きながらシュウゴたちのことを思い出す。


(いい人たちだったなぁ……メイちゃんは純粋で可愛らしいし、デュラくんは犬みたいにシュウゴくんべったりで面白いし……それに、シュウゴくん……)


 ハナは立ち止まり胸に手を当てた。

 なんだか不思議と温かい気持ちになってくる。

 しかし今はクエスト中。

 ハナは気を引き締め直し、再び歩き始める。


 次第にハナは胸騒ぎを感じるようになった。

 目撃情報のあった場所は既に過ぎているというのに、カオスキメラの姿がどこにもない。

 ハナは不審に思って立ち止まると、周囲を見回した。

 すると、激しく争った跡を見つけ、そして――


「――えっ?」


 ある岩の影に死骸を見つけた。それは……『カオスキメラ』の死骸だった。


(そんな……一体誰がクラスBを……)


 バクバクと不安に暴れる心臓の音を無視しながら慎重に近づいていく。


「――ガルゥゥゥ」


 突如、ハナの背後から猛獣の唸り声が響き、なにかがドスンッ!と着地する。

 ハナは緊張に頬を強張らせながら背後を振り向いた。


「っ!?」


「――ガオォォォォォォォォォォンッ!」


 ――――――――――


 その日、隼の修復が完了し、シュウゴはすぐにシモンの鍛冶屋で換装を済ませた。

 メイはそろそろ孤児院での仕事が終わる頃だが、デュラが迎えに行っている。

 シモンは最後に、隼の稼働を確かめながら言った。


「結局、あの鉱石がどんな性質を秘めてるのか分からなかったよ」


「そうか……まぁただの硬い石ってだけかもな」


「とりあえず、隼の補強には十分の硬度だから存分に使ったよ。でも次からあまり無茶するなよ? 金のなる木がなくなったんじゃ商売上がったりだ」


「余計な一言を付け加えるなよ」


 二人はゲラゲラと笑い合う。

 シュウゴが鍛冶屋を出ると、夕方の商業区は人通りがやけに多かった。

 特にハンターらしき恰好の者が多く、誰もが不満だったり恐怖だったりを表情に出していた。

 変な胸騒ぎがする。

 不穏な空気から察するに、なにかが起こっているのは間違いない。

 そこで、道行くハンターをつかまえて聞いてみると、「一時的にフィールドへの転移禁止」となったようだ。

 彼はフィールドで討伐隊に声をかけられ、今すぐ町へ戻るよう圧力をかけられたらしい。

 シュウゴはその理由を知るべく彼らの向かう場所、中央広場へ向かった。


「――メイ! デュラ!」


 シュウゴが広場に到着すると掲示板に群がる人だかりの中にメイとデュラを見つけた。

 二人はシュウゴの声に反応し、人込みを掻き分けてシュウゴの元へ駆け寄る。

 メイは動揺に瞳を揺らしていた。


「お兄様、大変なことになってるようです……」


「張り紙が読めたのか? 一体なにがあったんだ?」


「『ベヒーモス』が廃墟と化した村に出現したと」


「なに!?」


 シュウゴはクラスAモンスターの出現に戦慄する。

 だがそれに加えて気がかりなことができた。


「まさか、ベヒーモス討伐のクエストが発注されたんじゃ!?」


「い、いえ。むしろその逆で、一時的にクエスト受注とフィールドへの転移を停止し、まだ村にいる人たちは討伐隊が即刻帰るよう、呼びかけて回っているようです」


「そうか……」


 それを聞いてもシュウゴの胸騒ぎは収まらなかった。


「……ハナは? ハナの姿を見たか?」


「い、いえ……」


 メイとデュラは気まずそうに首を横へ振る。


「くっ!」


 シュウゴは紹介所へと駆け出した。

 無用な心配である可能性が高い。

 それに村への転移が禁止されている以上、カムラで彼女の姿を探すぐらいしか今のシュウゴにできることはない。

 だがそれでも、一度は仲間になった人を放置するなんてできなかった。


「あんな思い、もう二度としたくない!」


 シュウゴの脳裏にアンとリンの絶望に彩られた顔が蘇り、胸を締めつける。

 あのとき誓ったのだ。

 もう二度と仲間を傷つけさせたりしないと。

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