シュウゴの怒り
シュウゴたちは家へ戻るべく、薄暗い倉庫街の通りを歩いていた。
ここら一体は倉庫が多く、日の光が当たりづらい。
「大きな建物がたくさん並んでいますね」
「ここら辺はバラム商会が管理してる倉庫街で、色んな店の在庫や町の非常食なんかが仕舞ってある。基本的に、この近くに討伐隊の駐屯所があって、彼らに治安維持を委託しているらしいよ」
メイに倉庫街のことを話していると、不意に悲鳴が聞こえた。男のものだ。
メイが怯えたように瞳を揺らしシュウゴを見上げる。
「な、なんでしょう……」
「分からない。でも、血の臭いがする」
嫌な予感をヒシヒシと感じたシュウゴは、どうするか迷ったが、悲鳴のあった方向へ歩き始める。
怯えるメイの頭を撫で、落ち着くように言い聞かせながら。
複数の男の話し声が聞こえてきたところで、シュウゴは立ち止まる。
路地裏の角から慎重に頭を少し出し、狭い通路を見る。
ある倉庫の入口に討伐隊らしき男が二人倒れていた。
体からは血が溢れ出し、致命傷であることは簡単に想像できる。
その手前に見張り役のように立っているのは、みすぼらしい恰好をして口にはスカーフをしているスキンヘッドの男。
薄くボロボロの服一枚に、安そうな短い曲刀を持っている。
見た目は貧しいが、討伐隊を倒している以上、実力は確かだ。
「……強盗、でしょうか?」
いつの間にかシュウゴの顔の下に並んで覗いていたメイが呟く。
「多分ね。なにか悪さをして追放されたハンターかもしれない」
「それでお金に困って強盗ですか……あっ! 中から出て――」
シュウゴは大声を出したメイの口を慌てて塞ぐ。
奥に引っ込めて再び倉庫の方を見ると、男が二人出てきていた。
どちらもやはりみすぼらしい恰好だ。
二人は大きな袋を肩に担いでおり、中身は倉庫の保管品だと推測できる。
三人とも顔を見合わせてニヤニヤと悪意のある笑みを浮かべ歩き始めた。
「このままじゃ逃げられるか。メイ、そこの通りを右に曲がってしばらくまっすぐ進むと、討伐隊の駐屯所がある。そこに行って状況を伝えてくれ。俺はここであいつらを食い止める」
「え? し、しかしお兄様は丸腰です」
メイの言う通り、今のシュウゴは戦闘装備ではない。
腰にはバーニアを着けていないし、大剣も持っていない。
あるのは僅かばかりの魔力と、オールレンジファング、そしてブーツだ。
(あれ? 意外といけるんじゃ?)
そう考えると、シュウゴは自分が人間ではないように感じて憂鬱になる。しかし今はそのおかげで戦える。
「俺は大丈夫。メイ、頼む!」
シュウゴの真剣な表情に、メイは「わ、分かりました」と返答し前を向く。
「ありがとう。俺が飛び出したら、すぐに行ってくれ」
そう言ってシュウゴは一呼吸置き、勢いよく通路へ飛び出す。
その直後、メイも飛び出しシュウゴに背を向けて全速力で駆け出す。
シュウゴの数メートル前方には強盗が三人。
彼らは人影が突然飛び出して来たことで動揺し身構える。
「な、なんだてめぇは!? 見てやがったのか!?」
「あ、兄貴、それよりも一人向こうへ逃げて行きますぜ」
強盗の一人がシュウゴの後方で走っているメイを指さしている。
彼らは盗難品を詰めた袋を地面に置き、剣をシュウゴへ向けた。
「おい兄ちゃん、そこをどきな。そうすれば命だけは助けてやる」
考えるまでもなく嘘だ。自分たちを見た者を生かしておくわけがない。
「あんたらこそ、こんなことをやってただで済むと思うなよ」
シュウゴの言葉には怒りが込められていた。
強盗の背後で倒れている騎士たち。
彼らはこの絶望的な世界で、皆が生き抜くために必要な人たちだ。
それがこんな私利私欲にまみれた理由で殺されるなんて、断じて許せない。
シュウゴは憤りを感じながらも冷静に、左腕を敵へ向けた。
この隼は強大な魔物たちを倒し、未来を切り開くための力。
小者ごときにおくれをとりはしない。
「ちっ、さっさと死ねやぁぁぁ!」
強盗三人が殺意を剥き、シュウゴ目掛けて一斉に駆け出した。
シュウゴもオールレンジファングを放とうと魔力を込め始めた、そのとき――