領主との交渉
シュウゴはメイの安全性について慎重に説明を始める。
「まず彼女はアンデットと呼ばれる種族です。アンデットとは、本来人間であったものの、凶霧の影響により人としての生命を失った者。つまり、心や思考の本質は人間でありながら、身体的には別の特性を持ってしまった種族なのです。ですから、人が人を襲わないように、メイもまた人を襲いません。今までだって、彼女と遭遇して襲われたなどという報告はなかったはずです」
ヴィンゴールが腕を組み唸る。
その表情は幾分か和らぎ、一定の理解は示してくれそうだ。
ヴィンゴールはさらに問う。
「して、その特性というのはなんだ?」
シュウゴは表情を引き締めた。
ここが正念場だ。
緊張感に表情を強張らせながらも生前のゲーマーとしての知識を駆使し、メイの戦闘時における有用性について説き始める。
「アンデットはまず、人間の何倍もの筋力を発揮することができます。これは、先に対峙した討伐隊の方々が身をもって体験しています。次に、状態異常にかかりません。これは既に人間としての生命の呪縛から解放されているためです。また、噂にもなっている通り、メイは魔物たちから獲物として認識されません」
「ほぅ……存外おもしろいな」
ヴィンゴールが興味深そうに目を細め、感嘆の声を漏らす。
シュウゴはここぞとばかりに畳みかけた。
「ですので、彼女の力を借りれば瘴気の沼地も進むことができ、魔物との戦闘でも優位に立つことができます。これは我々の開拓におおいに役立つかと」
「――なりませぬ」
声を上げたのは、絨毯に整列している騎士たちの先頭に立つ男だった。
ひょろりと痩せ細った長身で、目の下にクマを作った不健康そうな顔だが鋭い眼差しで高い知性を宿しているように見える。
上質な白いローブを着こみ、分厚い辞書のような物を脇に抱える姿から、軍師のような役職だと思われる。
となると、領主専属の文官『キジダル』か。
彼の言葉にヴィンゴールも頷き、
「そうよな。中々おもしろい話ではあったのだが、そう簡単に彼女を野放しにするわけにもいかない。それは領民が忌避するだろうからな」
「――私に良い案がございます」
次に口を挟んだのはバラムだった。
入室したときは騎士の影に隠れて見えなかったが、脇に立っていたらしい。
彼に良いイメージを持っていないのか、両脇の騎士たちは眉をしかめた。
しかしヴィンゴールは、興味深そうにバラムへ目を向ける。
「なんだ?」
「そこのハンター一行に罰をお与えになってはどうかと」
「んな!?」
シュウゴは思わず声を上げた。
しかし先にその真意を問うたのはヴィンゴールだ。
バラムはなにかを企んでいるような、得体の知れない笑みを浮かべている。
「どういうことだ?」
「討伐隊に盾突いた彼らには、罰として瘴気の沼地へ赴いてもらいましょう。ただ、チャンスを与えたく存じます。沼地で進路を阻んでいるコカトリスを討伐し、その奥の洞窟を抜けた先になにがあるのか、それを確かめて頂きたい。それをクリアできれば、今回の件は不問ということでどうでしょうか? もちろん、全ての責任はハンターの雇い主であるこの私が負います」
シュウゴはバラムの狡猾さに瞠目した。
さすがは天下の大商人。
もしシュウゴたちが失敗して死んだとしても、反逆を裁いただけだと説明がつく。
成功した場合は、優秀な手駒が手に入るのだ。さすがに手が早い。
「なるほどな。折角だから彼の言うアンデットの特徴とやらを試したかったところでもある。この件は、バラム商会に一任するとしよう」
「りょ、領主様!?」
「なんだキジダル。この期に及んで商会に加担するなとでも言うつもりか?」
「い、いえ、滅相もございません」
キジダルは言葉を詰まらせ目線を下げると、一歩下がり騎士の列に戻った。
バラムは二ヤリと意地の悪い笑みを浮かべると、ヴィンゴールに告げる。
「では、彼らの身柄は私のほうで預かりますのでご了承ください。それでは失礼致します」
「ああ、期待しているぞ」
ヴィンゴールの言葉はバラムでなく、シュウゴでもなく、メイへ向けられていた。
メイは怯えたようにシュウゴの背に隠れると、半分だけ頭を横から出してコクリと頷く。
ヴィンゴールは満足げに頬を緩めた。
バラムがシュウゴの横まで歩み寄ると、「来なさい」とささやき、最後にヴィンゴールと騎士たちに一礼をしてから階段を下って行った。
「この度は、寛大な処置をありがとうございました」
シュウゴはヴィンゴールへ礼を言うと深く頭を下げる。
メイも小さい声で「あ、ありがとうございました……」と呟き、デュラは無言で深く頭を下げた。
「ふん、礼ならバラムにするが良い」
そうして三人は領主の館を後にする。





