怨恨纏いし残像
「――許さないっ……絶対に……」
漆黒の稲妻纏った斬撃が宙を走る。
それは低く雷鳴を轟かせ、メイを拘束している蛇や尾の束をまとめて斬り裂いた。
「きゃっ」
拘束のなくなったメイは、突然浮遊感に襲われ地面に落ちて尻餅をつく。
いったいなにが起こったのかと困惑し目を白黒させる。
「……貴様、なぜ動ける?」
背後を振り向いた鵺が眉を寄せ、驚きに声を上げた。
その目線の先では、毒で麻痺していたはずのシュウゴが立ち上がっていたのだ。
ただ、様子が先ほどまでと明らかに異なっている。
燃えるような赤髪は今、白銀に染まり、逆立つかのように浮いている。鵺を睨みつけている、激憤を秘めた瞳は深紅に輝き、全身には陽炎のようにゆらめく禍々しい漆黒のオーラを纏っていた。
それは凶霧――憎悪に魅入られた怨恨の魂たちだ。黒い煙のような魂が周囲から次々にその体へ集まって行き、徐々に増大し続けている。シュウゴの怒りに反応し、魂たちが吸い寄せられているのだ。
変異はそれだけではない。纏った怨恨のオーラに雷を流して漆黒の稲妻とし、まるで魔神のような荘厳なる覇気を発していた。
「……なるほどな。それが不死王の力というわけか」
鵺は動じず、むしろワクワクしているかのように声を弾ませると、予備動作もなく地を蹴った。
目にも止まらぬ速さで魔獣の顔を突き出し、大きく口を開いてシュウゴを喰らおうとする。
しかし――
「――なに?」
一瞬、鵺の体が痺れ動きが止まった。
捕まえようとしたシュウゴは目の前におらず、魔獣はなにも捉えられていない。
眉を寄せ、困惑の表情を浮かべた鵺が頭上へ顔を向けると、シュウゴは浮いていた。
「貴様、なにをした? 俺は確かに貴様を捉えていたはずだ……」
冷静に問う鵺。
しかし、見下すかのように冷ややかな目で見下ろすシュウゴは答えない。
鵺はすぐさま外套から蛇、サソリの尾、悪魔の腕を放出し、一斉にシュウゴへ襲い掛かる。
「…………」
だが捉えられない。
腕がシュウゴを掴んだと思ったときには、黒い霞のような残像に入れ替わっており、本人の位置は後ろにズレていた。
まるで認識が阻害されているようだ。
「ちょこまかとぉっ!」
四方八方から蛇たちが襲い掛かるが、シュウゴは体を反らして紙一重でかわし、ゆらゆらと漆黒のオーラをはためかせながら自在に宙を舞う。
「そこかっ!」
左右から串刺しにようとサソリの尾が襲い掛かる。
だが捉えたのは黒い残像だけ。
おまけに稲妻の残滓が電撃のカウンターを与える。
「ぐっ……これならどうだ!?」
シュウゴの顔面から迫る尾の針は、顔を反らすことでかわし、掴みかかって来る手は電撃で麻痺させて無効化。多数の蛇はシュウゴの残滓を遅れて追い、隙だらけになった蛇や尾の束は大剣でまとめて叩き斬る。
背後から蛇の集団が一斉に襲い掛かって来るが、宙返りで華麗に回避。
一本一本を斬り捨てながら、漆黒の斬撃を鵺へと放つ。
「ちぃっ!」
忌々しげに舌打ちした鵺は、翼を広げて飛び上がり、斬撃を避ける。
シュウゴと同じ高度まで飛翔すると滞空し激しく睨みつけた。
「……纏った魂を高速移動で体から引き剥がし、稲妻を纏わせて残像にしているのか」
鵺は冷静に分析し、認識を阻害しているカラクリを言い当てた。
だがそれを知ったところでシュウゴは止まらない。
――バシュゥゥゥゥゥンッ!
シュウゴはバーニアをフル出力で噴射し、猛スピードで鵺へ迫る。
鵺は慌てて周囲の個体をぶつけようとするが、やはり捉えられるのは残像だけで、本体は既にもっと前へ進んでいる。
鵺はやむをえず、振り下ろされたブリッツバスターを妖刀で受け止める。
近接戦闘は分が悪いと判断し、外套の内側でチャージしていたイービルアイの腕を突き出し、同時に至近距離でレーザーを放つ。
シュウゴは既に頭上へと飛び上がっていた。
「このっ!」
腕の目玉たちそれぞれの収束タイミングをずらし、低火力のレーザーを連続して放つ。
シュウゴは縦横無尽に飛び回り、射線を補正して追いかけるがまるで当たらない。
「ちぃっ、まるで幻でも見ているかのようだなぁっ!」
忌々しげに吐き捨てる鵺。
気付くと、シュウゴは視界から完全に消えていた。
「っ!? どこだ!? どこにいる!?」
まだどこかでひしひしと覇気を感じる。
焦る鵺は首を振り周囲を見回すが――