新生デュラハン
それから数日、シュウゴはデュラのハンター証を紹介所で代理申請した。
審査は無事通過し発行され、デュラを正式なパーティーメンバーとすることができた。
もし怪しまれて本人確認のようなものが必要になったらどうしようかと内心ドキドキしていたが、ユナの話ではクラスC以上のハンターからの紹介であれば、大した確認もなく通るのだという。
ついでに紹介ボーナスとしてポーションやエーテルなどのアイテムが二人分プレゼントされたのでありがたい。
デュラの加工が終わるまでの間、シュウゴは一人でクエストに出て素材収集をしたり、広場で情報を集めたり、設計の思考錯誤をしたりと落ち着いて過ごしていた。
「――彷徨う少女の亡霊?」
昼、デュラのことが広まっていないか広場の掲示板を見に来たシュウゴだったが、また別に新たな情報が増えていた。
~~彷徨う少女の亡霊~~
最近、瘴気の沼地や明けない砂漠で色白の少女を見たという目撃情報が寄せられている。
見眼麗しく儚げな銀髪の美少女で、ゆらゆらとフィールドを彷徨っていたという。
どこかの村の生き残りかと思われたが、フィールドで一人彷徨い続けていることを鑑みるに、食事を必要としない霊体なのではないかと推測された。
もちろん、声をかけようとした者はいたが、少女は彼らの姿を見ると、逃げるように魔物たちの群れの中へと姿を消すのだという。
放っておいても害はないが、もし廃墟と化した村にも出現した場合は、討伐隊が動くそうだ。
シュウゴは少女のことが無性に気になった。
デュラと同様、彼女もなにかを探しているのかもしれず、それがまたなにかの発見に繋がるかもしれない。
しかし、デュラと違って彼女がどこにいるのか分からないので、今はまだ捨て置くことにした。
「さてと……」
シュウゴは商業区のある西の方角へ体を向ける。今日の昼過ぎにはデュラの修理が終わるとシモンから連絡があったのだ。
彼はゆっくりと歩き始める。
「――どうも」
シュウゴが気のない挨拶で鍛冶屋に足を踏み入れると、若い職人たちが入れ違いで出ていくところだった。
彼らはシュウゴに軽く会釈し、そのまま工具類を担いで商業区の通りへ歩き去っていく。
「丁度いいところに来たね、シュウゴ」
シモンの弾んだ声に振り向くと、彼の横には背の低い木の椅子に座ったデュラがいた。
シュウゴの姿を見た途端、勢いよく立ち上り気を付けをする。
「ちょうど今終わったところなんだ」
シモンが自慢げに頬を緩ませ、デュラは一歩前へ踏み出した。
シュウゴは彼の姿をよく観察する。
全体のカラーリングは漆黒と白銀で、ところどころのパーツは深緑。ある種の禍々しさをかもし出していた。
兜は頭全体を覆う西洋風のもので、後頭部からは銀色の後ろ髪が伸び、ポニーテールのようになっている。
カトブレパスの毛皮だ。
簡単に外れないよう、兜と胴部は溶接されており、首周りには漆黒のマントが巻かれていた。
「町ではマントで全身を覆っているといいよ」
シモンの提案に応じ、デュラが背のマントを前へ引っ張ると全身を包み込んだ。
まるでどこぞの男爵のようだ。
これなら、町では全身フルアーマーという異質感をある程度緩和させられるだろう。
胴部には厚い白銀の胸当てを装着し、肩当には薄い盾のようなものを着け、左右からの攻撃にも耐えられるようにしてある。
その分、腕甲は軽量重視のものにし深緑の籠手を装着している。
腰当には、ロングスカートのような革製のものと鎖帷子で、足には白銀と漆黒の入り混じった斑模様のような脚甲を着けていた。
ランスは注文どおり、柄の半分ほどで内側に引っ込み右腰にぶら下がっている。
盾は、簡易的な将棋盤のように中央で折られ、左腰に装着されている。
「……おぉ……」
シュウゴは感嘆に声を漏らす。
その二メートルほどの背丈もあり壮観だった。
「気に入ってもらえたようだな。それじゃあ、これが請求書ね」
シュウゴの感動に水を差すように、シモンが笑顔で一枚の紙切れを渡す。
それを受け取ったシュウゴは「うげぇっ」と顔を盛大にしかめた。
べらぼうな金額と、不足分をシモンが肩代わりした大量の上質素材。
しかし、この完成度であれば当然か。
シュウゴは数日かけて返す旨を伝えると、デュラを連れ鍛冶屋を出る。
道中で浴びた、驚嘆や畏怖、羨望に満ちた視線はどこか心地良かった。





