望まぬ再会
「――ごふっ!」
メイの能力でヴィンゴールの魂の位置を把握したシュウゴ。
彼が黒い霧の奥へ飛び込んで最初に目にしたのは、悲惨な光景だった。
辺りには血まみれになった技師や鍛冶師の遺体が投げ出され、ヴィンゴールの側近であるカイロスも、剣を地面に突き刺し歯を食いしばって前方を睨みつけているが、左足の膝から下がなく、大量に出血していた。
そしてその後方では――
「――キジダル!」
叫ぶヴィンゴール。
彼の目の前には、かばうように両手を広げたキジダル。
その腹には、ダークブラウンの光沢を放つサソリの尾が突き刺さり、背中まで貫通している。
驚愕に目を見開いたシュウゴは、怒り狂った。
「なっ……なにをやっているんだぁぁぁぁぁっ!」
バーニアを噴射し急発進してブリッツバスターを振り上げ、キジダルへと伸びているサソリの尾を叩き斬る。
サソリの尾は不気味な濃い紫色の体液を流しながら綺麗に切断され、支えを失ったキジダルは仰向けに倒れた。
どさりと音を立てると、すぐさまヴィンゴールがひざまずいて抱き上げる。
「キジダル! しっかりしろ!」
「領主、様……ご無事、ですか?」
「あ、ああっ! そなたのおかげだ!」
「……良かっ……た……」
「キジダルっ!」
キジダルは最期に満足そうに頬を緩めると、ガックリと首をうなだれた。
ヴィンゴールは目を見開き、彼の体を揺さぶってその名を呼ぶが、もう反応はない。
彼は歪みそうになる顔を必死に抑え、震える声で言った。
「……今までよく仕えてくれた。心から感謝している。どうか安らかに眠ってくれ……」
「くっ……」
シュウゴははらわたが煮えかえる思いで敵を睨みつけた。
長い黒髪に感情の宿らない黄金の瞳。目の下から頬にかけて赤い色の筋が枝分かれし、不気味さをさらに際立たせていた。右肩に獅子の頭骸骨、左肩にヤギの頭骸骨を装着した長い紺の外套を羽織り、背からは蛇やサソリの尾を伸ばし、こちらへ向けている。
「鵺……」
その名を読んだシュウゴの声は震えていた。
それは怒りによるものか、恐怖によるものか、自分でもよく分からない。
頬の赤い筋もだが、鵺は以前遭遇したときとは比べものにならないほどの覇気を纏っていたのだ。
「久方ぶりだな、ハンター」
相変わらず抑揚のない声だが、表情は心なしか嬉しそうに見えた。
魔神の如き圧倒的な覇気を前に、シュウゴは緊張に顔を強張らせながらも気丈に対峙する。
「よくもキジダルさんを」
「そこに倒れた男のことか。領主を喰おうとしたのを邪魔をしてきたからな。だから殺した。それだけだ。いくら知略に富んだ者だろうが興味はない」
「なんだと!?」
なんとも思っていない鵺の答えに苛立つ。
しかし違和感があった。
今の口ぶりだと、キジダルやヴィンゴールのこと知っているようだ。
考えられる結論に、シュウゴは奥歯を噛みしめた。
「まさかお前、カムラの人間を……」
「食うわけがないだろう。そんな弱小な種族。取り込んだところでなんの意味もないわ」
「なら、なぜ領主様を狙った!? この黒い霧もお前が発生させたんだろう。アンフィスバエナを捕食してまで、なぜカムラを襲う!?」
シュウゴの仮説は正しかった。
アンフィスバエナの突然の消滅。それができる存在は一人しか思い浮かばない。そしてこのカムラに黒い霧が蔓延し、鵺が現れたことでそれは確信へと変わった。
だがどうしても理由が分からない。
「ふん、カムラの領主などついでに過ぎない。俺の狙いはお前を喰うことだけだ」
鵺は表情一つ変えることなく淡々と告げると、外套の前面を広げ、内側から無数の腕が飛び出す。悪魔のものようなゴツゴツとした大きな灰色の手だ。アスモデウスの腕によく似ている。
それらは一直線にシュウゴへ迫った。





