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去る者と残る者

 まず、ダンタリオンの目的はカムラで間違いない。

 それはまっすぐに進みカムラを目指しており、今ダンタリオンを倒さなければ、カムラは今度こそ滅ぶ。廃墟と化した村を超えられれば、奴を足止めできる中継点はなくなるのだ。

 足止めの方法は、グレンたちが命を賭した調査によって判明。

 魔物の死骸を原液に飲み込ませることだ。どうやら、ダンタリオンは物体を凶霧に変え、それから魔物を再生させる能力を持っているようで、そのためにはエネルギーが必要らしい。

 その重大な情報を得た代償として、第一陣は伝令係を除いて全滅した。


「――それなら、今すぐにでも出撃しなければ!」


 血気盛んな中年の男が説明を遮って叫ぶが、参謀は冷静に答えた。

 第一陣は最期に大量の魔物を倒したため、ある程度の足止めが期待できるとのこと。グレンが残した言葉は、「万全を期して迎え撃ってほしい」ということだった。

 そこまで言うと、参謀は下がり、ゲンリュウが前に出た。


「我々は、グレン大隊長たちの勇敢な行動を無駄にするわけにはいかん。これから第二陣が出撃し、命懸けでダンタリオンを足止めする。その間になんとしても砲台を完成させ、ダンタリオンを討つ。今できるのはそれだけだ」


 ゲンリュウは今、第二陣に死ねと言ったようなものだ。魔物を倒すとは言っても、イービルアイやアラクネのクラスはC。簡単なことじゃない。そんな絶望的な状況で彼らは、レーザーカノンが完成するまで退くことも許されないのだ。

 あまりに絶望的な作戦。

 一体誰が志願するというのか。

 ゲンリュウは、隊員たちの心に渦巻く恐怖を認識しながらも、大きく息を吸い告げた。


「第二陣は、ここにいる全員に出撃してもらいたい」


 衝撃が走った。

 静寂が訪れた。

 誰かがガタガタと震えていることが分かる。

 誰にもなにも言えなかった。

 逃げ出すことはできるが、それでもダンタリオンが来れば、どのみち全滅する。


「――すまぬ、無理を言ったな」


 全体の反応を見たゲンリュウは、声のトーンを下げて言った。

 隊員一人一人の顔を見て、ゆっくり穏やかに続ける。


「皆、家族がいるだろう。愛しい者がいるだろう。そしてその者たちも、君たちを必要としているだろう。私にそれを奪うことはできない。だから、戦えない者はこの場を去ることを許す」


 そう言ってゲンリュウは静かに目を閉じる。

 すると、隊員たちは顔を見合わせ、戸惑いの表情を浮かべた。


 ――逃げていいのか――


 それは彼らの心に衝撃を与えたに違いない。

 決心を揺らがすようなことをして、ゲンリュウは一体どうしたいのか。クロロにはなんとなく分かった。

 やがて、若い数人の騎士が俯き、静かに去って行く。それを呼び止められるものは誰もいない。

 それが一人、また一人と増えていく。

 そして――


「――っ!?」


 アインもまた、泣き出しそうな表情で肩を震わせ俯き、歩き出す。

 同期であり友でもあるキルゲルトの横を通り過ぎるとき、彼は俯いたまま蚊の鳴くような声で謝った


「ごめん……」


 それを見たキルゲルトが信じられないというように目を見開き、声をかけようとするが、それを先に察知したクロロがその横に移動していた。


「よせ」


 キルゲルトの肩を掴み、小さく告げる。

 彼はクロロの顔を見て思い止まり、寂しそうに眉尻を下げて肩を落とした。

 しばらく去る者たちを見送り、ようやく去る者がいなくなった頃、ゲンリュウは目を開き言った。


「決して、去った者たちを(さげす)むことをしてはならない。だがカムラのために、命を賭けることのできるそなたらに心よりの敬意を――」


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