老騎士たちの意地
「――俺が行きます」
静寂を破ったのは、クロロの隣に立っていた初老の騎士だった。クロロの隊の副隊長『ビルゴ』だ。ヒューレが隊長のときから副隊長だったが、ヒューレの死後は一時的に隊長になったものの、シュウゴの処刑騒動で活躍したクロロに快く隊長の座を譲ったという。
彼は、右手を高く上げ、左手でクロロの右腕を強く掴んでいた。
「……ビルゴ、さん……どうして?」
クロロは信じられないというように瞳を揺らし、ビルゴを見た。クロロの右腕はがっちり掴まれているせいで動かせず、挙手できない。
ビルゴはクロロを見ると、欠けた前歯を見せて笑みを作った。
「あんたみたいな若者が命を賭けるのは、ここじゃない」
クロロは目を見開き言葉に詰まる。
全員の注目が集まる中、発された言葉は歴戦の勇士たちの心に火を灯した。
そして、先ほどまでの絶望的な空気が嘘のように、次々手が上がり静寂を突き破った。
「俺も行きます!」
「わしもだ」
「若いもんを先に行かせるわけにはいかねぇ」
手を上げていたのは皆、討伐隊の中でもかなり年上のベテランたちだった。
彼らは危険な戦場へ若者を行かせることを恥じ、これが自分たちの責務なのだと言わんとしているかのようだ。
想定外の熱意に圧倒され、グレンは目元を潤ませ息を呑む。
「みんな……ありがとう!」
臨時編成は完了。
グレンをリーダーとして、二十名ほどの老騎士の第一陣出撃が決定したのだった。
第一陣の出撃直前、グレンはレーザーカノン設置作業を継続している高台の下でファランを見つけた。
出撃の時刻までもう時間もないが、グレンは足を止めた。伝えなければならないことがあるのだ。
すると、タイミング良くファランが後ろを振り向き、グレンと目が合う。
「グレン?」
ファランは目を丸くし、グレンの元へ駆け寄った。
「……ファランさん、事態は想像以上に深刻かもしれません。」
「いきなりなんだ? そんなこと、俺にだって分かってるさ。あんたらの報告があったらすぐにでも、可能な限りの性能試験を始めるつもりだ」
「それでは遅いかもしれません。胸騒ぎがするんです。知能など欠片もなさそうな、あのダンタリオンが突然動き出した。これは本当に偶然でしょうか?」
「……どういうことだ?」
思ってもみない問いに、ファランは険しい表情になった。
グレンも釈然としない状況に胸騒ぎを覚えていたのだ。周囲を見回して、誰も聞いていないことを確認すると、声量を落として告げる。
「もしかすると、誰かが操っているのではないでしょうか? それか、なんらかの方法でダンタリオンを誘導したとか……」
「んなっ!? そんなこと……」
「ないと言えますか?」
「だ、だがな、もしそんな状況になってたら、お前さんは……」
「ええ、最初に死ぬでしょうね。私たちを敵さんが見逃すわけがない。もしかしたら情報を伝える暇なんてないのかも――」
「――バカ野郎っ! 分かった! お前さんの言う通り、すぐに準備を始める。だから、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」
ファランは肩を震わせ、グレンに掴みかかって怒鳴った。
グレンはゆっくりとファランを押しのけ、礼を言って頭を下げると、廃墟と化した村へ出撃するのだった。