愛する町を守るため
「なに?」
険しい表情でキジダルを睨みつけるヴィンゴール。
彼の言っていることが理解できないといった表情だ。
他の幹部たちも眉を寄せ顔を見合わせている。
だがキジダルは、強い眼差しでまっすぐにヴィンゴールを見つめ、言葉を続けた。
「今のところは、ダンタリオンの目撃情報があっただけです。その目的は不明。つまり、カムラへ向かって来るとは限りません。対応は慎重にすべきではないでしょうか? もし何事もなく奴が帰っていくのだとしたら、今回のために不完全な砲台を作ることや討伐隊を戦わせることは大きなリスクになります」
「……ふむ、一理あるな」
キジダルの意見にヴィンゴールは反論できなかった。
彼の言う通り、ダンタリオンがカムラまで到達する前提で不完全なレーザーカノンを作ることは、後々致命的な欠陥を生む可能性があり、破損や暴発のリスクになる。それに討伐隊を向かわせるのなら、間違いなく死人が出るだろう。それを考えると、今の情報だけで真正面からぶつかるのは危険な選択と言わざるを得ない。
対応は慎重を期すべきだ。
「キ、キジダル殿の言う通りだ」
「だが、対応しないのもまたリスクだぞ……」
総務局長や参謀たちが頭を抱えて悩む中、グレンが意を決した表情で拳を固く握り、前に出た。
「――私が調査部隊を臨時編制し、ダンタリオンの調査に向かいます」
突然の提案にヴィンゴールが顔を上げた。
キジダルは眉を寄せ問う。
「なに? 大隊長自ら出向くと言うのか?」
「そうです。この一大事、スピードが最も優先されます。のんびりと情報を整理している余裕はありません。ですから私が出向き、早々に手を打つべきかどうか、現場で判断致します」
グレンの目には強い意志が宿っていた。自らの手でカムラを守ろうという強い意志が。
「分かっているのか? あれは恐ろしい魔物だ。調査とは言っても非常に危険だぞ」
「覚悟の上です」
戸惑うようなキジダルの問いに、グレンは毅然と答えた。
彼の心意気に圧倒されたキジダルは、「行くな」とは言えなかった。
周囲からも異議は出ない。
ヴィンゴールも眉間にしわを寄せて唸り、悩んだ末、決断を下した。
「……分かった。調査部隊の編制と指揮はグレン大隊長に任せよう」
「はっ! 直ちに準備致します!」
グレンは力強く頷き、身を翻してすぐに領主の館を出る。
グレンが出た後も議論は続き、彼の第一陣出陣後の第二陣の編制や領民への情報開示などの議論に移った。
クエストの手続きは既に一時停止しているが、その理由を正式に公開することに決定。
もしダンタリオンがカムラへ向かっている場合、討伐隊とハンターを募って敵を足止め。レーザーカノンの発射準備を無理やりにでも完了させる。
白熱する議論の中で、「シュウゴを呼び戻すか」という話を出たが、彼が出てから時間が経っており、探しに行くにしても魔物と遭遇する可能性が高く危険なため、却下された。
おおよその方針が固まり、キジダルが険しい表情で息を吐くと、広報長官がポツリと呟いた。
「よりにもよって、設計士殿がいないときに……」
「まったくだ。早く帰って来てもらいたい」
すっかり弱気になった総務局長も、彼の意見に同意する。
それはバラムやキジダルも思っていること。だが口には出さない。士気に大きく関わることだからだ。
だから、ヴィンゴールは怒鳴った。
「いつまでシュウゴに頼るつもりだ!? 恥を知れ! 我々は、愛する町を自らの手で守らねばならんのだ!」
怒号が静寂を裂き、荒々しく響き渡る。
その想いは彼らの心を震わせた。
皆がハッと顔を上げると、ヴィンゴールは厳かに告げた。
「今は自分にできることを限界までやるしかない。誇り高きカムラの戦士たちよ、戦え!」
シュウゴ不在の今、カムラ最大の防衛線が始まろうとしていた。





