オリハルコン
それからシュウゴは、商会の鍛冶屋組合やファランたちと共に、日夜議論した。
もちろん、ダンタリオンが襲いかかってくるという情報は民を恐怖にさらしてしまうため、適当な噂を流して秘密裏に動いた。
ダンタリオンがカムラへ接近するとは言っても、あれが垂れ流している汚染水に触れでもすれば即死。つまり、超長距離からの攻撃で倒さなければならない。
そうなるとかなりの射程距離が必要だ。あれを倒すと死骸から大量の汚染水が溢れ出すことが想定されるため、せめて廃墟と化した村の北端周辺で倒すことが望ましい。
それだけの射程、あれを貫くだけの火力、実現可能なコスト。どれをとっても難題だった。
ひたすら議論と実験と設計を繰り返した。
キュベレェによって密林での素材採取も許可され、討伐隊と鍛冶屋組合から数多のクエストを発注し鉱石類などの素材を集めた。
そして、とうとうそれは発見される――
「――オリハルコン?」
シュウゴが首を傾げる。
彼はシモンの鍛冶屋を訪れていた。
密林の洞窟で、新たに発見されたという鉱石の解析結果を知るために。奇しくもその洞窟とは、かつてフェミリアが潜んでいた滝の裏だった。
「ああ。かなりの強度で汎用性も高そうだ。蓄電石やジュール鉱石みたいなパターンもあるから、試しに雷を加えたところ、通電性が高かったらしい」
「なるほどな」
シュウゴは眉を寄せ、難しい顔で顎に手を当てる。
オリハルコンはつまり、ジュール鉱石やエレキライト鉱石のような電気的な負荷となるものではなく、アラクネの糸のように電気を運ぶような性質を持っているということだ。
となると、アラクネの糸では流せないような、高電流を流す装置の開発が可能になったということ。
しかしシモンは残念そうにため息を吐く。
「金ぴかに輝いてたし、かなり有用な物かと思ったんだけどなぁ……これじゃぁ装備の強度を上げるぐらいしかできそうにないな」
「いや、それはまだ分からないだろ?」
「そんなこと言ってもねぇ。あらかた実験は済んだし、これ以上の性質は見つかりそうにないぞ」
シモンは諦めて次を探そうと言う。
彼も鍛冶屋組合の一員として、今回のダンタリオン討伐兵器の開発には、全面的に協力していた。
シュウゴにとって、最新の情報や埋もれてしまった有益な情報を得るのに、最も必要な存在だ。
「いや、今分かってる高い『導電性』だけでも、十分活用できるはずだ」
シモンは導電性という単語に首を傾げる。
この世界には、電気関係の学問が存在していないため、無理もない。だからこそシュウゴは、これまでに銭湯や照明などを設計することでカムラの発展に役立ってきたのだ。
そんなシュウゴの提案をシモンは否定できず、腕を組んで苦しそうに唸る。
「う~ん……しかしな、イービルアイの目玉みたいに高熱量を発生できるもんじゃないと、ダンタリオンなんて倒せないって」
「高熱量?」
「そうそう。帯電するわけでもなく、稲妻がバチバチと通り過ぎるだけじゃなぁ……」
そのとき、シュウゴの脳裏にとあるSF小説のワンシーンが浮かんだ。
稲妻がほとばしり、放たれる弾丸。
それは『超電磁砲』と呼ばれた兵器。
シュウゴは脳が沸騰するかのような興奮を覚えた。
「いや、いけるぞ! 電磁加速を使えば!」
「おわっ!? 急にどうした? 『電磁加速』ってなんだよ」
シモンはシュウゴが急に大声を上げたことでひっくり返りそうになる。しかしシュウゴには友の心配をしている余裕も、質問に答えている余裕もなかった。
突然脳裏に浮かんだ、『|電磁加速式光線源投射砲』のことで頭が一杯だったのだ。





