英雄と三人娘
ユミルクラーケンを討伐したことにより、海は徐々に綺麗なコバルトブルーを取り戻しつつあった。死滅した海洋生物たちはもう戻ってこないが、航路が開かれたことにより、大陸探索の幅が大きく広がる。
討伐隊は、航路を利用して新たな土地を開拓すべく海専隊を編成し、戦いで損壊したカイシンを修理して大海原へと臨むのだった。
その夜、シュウゴはユリ、ユラ、ユナに誘われ、酒場で飲んでいた。
復興支援のおかげもあって、ようやく立て直した酒場は、すっかり以前の賑やかな様相を取り戻していた。そこら中のテーブルでハンターや商業区の人たちが酒を片手に盛り上がっている。
ユミルクラーケンを倒してからというもの、カムラ中の人々が歓喜のあまり毎晩騒いでいる。今までの暗い雰囲気が嘘のようだ。おかげさまで酒場の店主は疲労困憊らしい。
だが、未だに屋根のある家もなく、ひもじい思いをしている人たちですら笑顔を見せるのだ。希望を持てることがこんなに素晴らしいことなのだと、シュウゴはしみじみ感じていた。
「ーーささ、どうぞ」
「あ、どっ、どうも……」
シュウゴの持つ空のグラスに、長女のユリが葡萄酒を注ぐ。彼女の綺麗な金髪にシュウゴは、思わず魅入ってしまう。黙って眺めていると、酒を注ぎ終わったユリと目が合い、彼女は妖艶に微笑む。
その色っぽい仕草にシュウゴがドギマギしていると、目の前で声が上がった。
「あぁっ! シュウゴさん、お姉ちゃんに見惚れてましたねぇ!」
「え? い、いや、そんなことは……」
三女のユリが机に身を乗り出し、左右のハーフツインをひょこひょこと揺らし、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。頬がほんのりと赤いことから酔っているのだと分かった。
しかし酔っ払いの戯言とはいえ、真正面から言われてしまうと、シュウゴは意識してしまう。
次女のユリが「こらこら」とはしゃぐユナの頭を撫でて座らせると苦笑した。
「妹がすみません。この子はすぐに酔ってしまうので……」
「そんなことないろぉ~」
そんなことあった。
シュウゴは微笑ましい気持ちでニコニコしているユナを眺める。ユナは紹介所では、はきはきと受け答えできており、仕事も丁寧にこなしているが、こう見るとメイと同じぐらいに見えた。
気になってユラに聞いてみると、やはりメイと同じで18の歳だった。
「メイさんやニアさんには、これからも仲良くして頂けると嬉しいです」
そう言ってユリは微笑んだ。
妹のことをしっかりと考えている、できた長女だ。
シュウゴはふと気になってユリとユラにも年齢を聞いてみる。
「……はい?」
「なにかおっしゃりましたか?」
しかし二人は笑みを貼りつけたまま、聞き返してきた。間違いなく聞こえているはずなのにだ。
どこか声が凍てついてたように感じるのは、シュウゴの気のせいではないだろう。
シュウゴは謎の威圧感に思わず肩をすぼめ、「な、なんでもありません……」と小さく呟いた。
すると、しばらく黙っていたユナがキャハハと笑う。
「もうぅ~シュウゴさ~ん。女性に年齢を聞いちゃらめなんれすからね~」
どうやら自分の年齢がバレたことは気にしていないらしい。それか気付いていないのか。
「そうです。もう次はありませんよ?」
なぜだろうか。ユリの冗談のはずなのに、シュウゴはその笑みを見て思わず身震いした。
冬でもないのに、顔を青くしシュウゴが震えていると、隙ありとばかりにユラが目を光らせた。
「ところでシュウゴさん、シュウゴさんはどんな女性がお好みで――」
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