戦士たちの帰還
激動の戦いを終え、カムラへ無事帰還した戦士たち。
カイシンが町の浜辺へ差し掛かると、浜辺には彼らの帰りを今か今かと待ち侘びていた領民たちの姿があった。
グレンが船首に立ち、彼らへ見えるように拳を高くかかげると、歓声が沸き起こる。その活気に触れ、シュウゴはようやく勝利を実感できたのだった。
船が停留すると、船員たちはすぐに船から降りて仲間や家族たちと抱き合った。クロロは、かつての同僚たちへヒューレの仇を討ったことを報告して共に涙し、ハナは門下生に「もう大丈夫」だと微笑みかけている。
シュウゴもカムラに降りると、グレンと話していたファランが駆け寄って来た。
「シュウゴ、よくやってくれた! これでようやく娘も浮かばれる」
ファランはそう言って目の端に涙を溜め、感極まったように頬をひくつかせながらシュウゴの肩を叩いた。
それを見て、シュウゴもなんだか目頭が熱くなった。
「いえ、ファランさんたちがこのカイシンで送り出してくれたおかげです」
「……ありがとよ」
ファランは豪胆な笑みを見せ、右手を差し出す。
シュウゴは誇らしい気持ちでそれを握った。
歓喜の声が溢れる中、シュウゴが周囲を見回すと、メイとニアはマーヤを始めとした教徒たちに囲まれて談笑しており、デュラはなぜかユリユラユナに囲まれてまんざらでもなさそうに頭をかいている。
(もう大丈夫そうだな……)
ニアは帰還する前に一旦眠ると、何事もなかったかのようにすぐ元の姿へ戻っていた。起きてから聞いてみると、おそらくヒュドラの血がニアの怒りに反応したということが分かった。
ニア自身、そのときの記憶は鮮明に残っており、力の制御もできていたということでシュウゴは安堵する。
それからしばらく、カムラはお祝いムードに包まれるのだった。
様々な事務手続きが終わり、数日たったある日、シュウゴは領主の館へ呼ばれた。
いつも通り討伐隊幹部たちが集まる中、シュウゴがヴィンゴールの前で片膝を折ると、彼は嬉しそうに声を弾ませながら告げる。
「シュウゴよ、こたびのそなたの功績を称え、これよりそなたをハンター『クラスA』へ昇格とする」
「は、はい?」
シュウゴは思わず耳を疑い、横に立ち並ぶバラムを見た。彼はさも当然というように穏やかな表情で頷いている。
しかしクラスAなど、ハンターの階級には存在していなかったはず。
もしあるのだとすれば、それはクラスBよりも上であることを意味していた。
「なにを呆けている? そなたはまたカムラを救ったのだ。設計士という立場に箔をつけるためにも、相応の待遇であろう」
「つ、謹んで拝命致します」
急なことで混乱したシュウゴは、断る理由が思いつかず、ゆっくりとこうべを垂れる。
今ここに、カムラ前代未聞のクラスAハンターが誕生した瞬間だった。
その後、シュウゴの任命式は終わり幹部たちは解散していく。
シュウゴもバラムからこれからのことを聞いた後、館を去ろうとするが、キジダルに声をかけられた。
「シュウゴ殿、よろしいかな?」
「へ? はっ、はい?」
シュウゴは思わず変な返事になってしまった。
しかしそれも当然。
キジダルがわざわざ声をかけることなど初めてだったからだ。
彼は顔を強張らせておりシュウゴは思わず身構えるが、それは杞憂だった。
「ありがとう。そして、これまですまなかった」
シュウゴは瞠目する。
あのキジダルがシュウゴに対し、礼と謝罪を口にして頭を下げたのだ。そんなこと天地がひっくり返ってもありないことだと思っていた。
心当たりはあるが、彼がそれに言及するとは思ってもおらず、なんと声をかければいいか分からない。
シュウゴが絶句して固まっていると、キジダルは続けた。
「本当はな、クラスAという称号を提案したのは私なのだ」
「え? それはどうして……」
「悔しいが君を認めているからだ。海の魔物を本当に倒すことができたのなら、心からの礼と謝罪をせねばと思っていた。私は頑固だが、愚かではないのでな」
そう言うとキジダルがぎこちなく微笑んでみせた。
胸が熱くなる。
シュウゴにとってはそれが、領民から感謝されることよりも、ヴィンゴールたち上層部に認められることよりも、嬉しいことに思えたのだった。





