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眠れる騎士

「――ごふっ」


 彼の胸から槍が生えていた。

 その厚い胸当てはいとも容易く刺し貫かれ、ポタポタと血が垂れ出す。

 貫いていた『ランス』はそのまま後ろへと引かれ、討伐隊長が仰向けに倒れる。

 彼はその時点で息絶えていた。


「バカなっ!」


 叫んだハンターは後ろへ跳び退き、両手の双剣を構える。

 シュウゴには今の早業が見えていた。

 ただのモニュメントにしか見えなかった『甲冑』が急に動き出したのだ。

 それは、討伐隊長が空洞に差し掛かると同時に立ち上がり、ランスを抜きながら振り向きざまに彼の胸を貫いた。


「コイツ、魔物だったのかっ!?」


 慌てて騎士たちが剣を掲げ、二メートルはあるかという首のない騎士に斬りかかる。

 しかし敵は、冷静に目の前の騎士の胸をランスで貫き、左から迫る一人には巨大な盾を振り抜き殴り飛ばす。

 さらにその場で一回転すると、ランスを薙刀のように薙ぎ払った。


「ぐぁっ……」


 騎士たちは振り飛ばされ岩壁に衝突し意識を失う。

 ほんの一瞬で全ての討伐隊員が無力化された。


「ちっ!」


 ハンターたちは第二波を狙い、一歩離れて構えていたことが不幸中の幸いだった。

 各々双剣、斧、太刀を構え、三方向から慎重に歩み寄る。


(首のない騎士だなんて、まるで『デュラハン』じゃないか)


 シュウゴも険しい表情で大剣を握りデュラハンへ駆け出す。

 先にしかけたのは斧を持ったスキンヘッドのハンター。


「おらぁっ!」


 両手で力一杯振り下ろすも盾で防がれる。

 デュラハンの左腕を封じたところで、二人のハンターが対面から同時に斬りかった。

 デュラハンは正面のハンターへ蹴りを見舞って受け止めた太刀ごと吹き飛ばし、素早くランスを逆手に持ち替え、背後へ突き刺す。


「がはっ!」


 正確に双剣使いの胸を貫くと、左のハンターの斧を盾で思い切り押し飛ばし、真正面から大剣を振りかぶるシュウゴの一撃を盾で防いだ。


 ――ガキィィィィィン!


 甲高い金属音が小部屋に響き渡る。


「……ちっ、やってられっか!」


 斧使いのハンターが短く吐き捨てると、部屋の入口へと走り去っていく。


「悪いね。さっさと逃げてクエスト達成とさせてもらうよ」


 太刀使いも武器を背に納め、一目散に逃げる。


「そんなっ……」


 仕方のないことだった。

 彼らはハンター。

 生きるために戦っている者たちだ。

 そもそも討伐隊とは手段も目的も異なるがゆえに、今ここで強敵に立ち向かう義務も、一緒に倒れてやる義理もない。


 シュウゴが絶体絶命の状況に顔を歪め、奥歯を噛みしめているとデュラハンが右腕を横に振るった。

 シュウゴは慌ててブーツのバーニアを噴射し、飛び上がって逃れる。

 デュラハンは既に逆手に持っていたランスを持ち替え、上空のシュウゴへ狙いをつけていた。


「くぅっ!」


 左腕にアイスシールドを展開し、鋭い突きを間一髪防ぐも、その威力に大きく突き飛ばされる。

 地面へ着地するのをデュラハンが待ってくれるはずもなく――


 ――シュッ!


 地を蹴り、前傾姿勢で鋭い突きを繰り出してくる。

 シュウゴは右肘の噴射で横へ体をスライド。

 デュラハンはそのまま横へ薙ぎ払ってくるが、下方への噴射でまた上昇する。

 今度は、反撃のために腰下のバーニアを全力で背面噴射した。


「はあぁぁぁっ!」


 大剣を振り下ろす。

 再び盾で受け止められ、デュラハンは横へ跳んで大剣を流すとカウンターの突きを繰り出す。

 シュウゴはアイスシールドで防御。

 勢いよく突き飛ばされるも壁際で噴射。壁を蹴り、突進してきたデュラハンの頭上を飛び越え、背後に着地する。


 振り向きざまに再び、斬りかかる。

 シュウゴはひたすら機動力で立ち回り、デュラハンはキレのある鋭い動きで翻弄。電撃のような攻防がひたすら続いた。

 武器と武器を交えるたび、デュラハンのまっすぐな騎士道精神がシュウゴへ伝わって来る。


(――どうすれば……)


 デュラハンの甲冑の中に生身の肉体はなかった。

 と、すると霊体か、この甲冑そのものがデュラハンの本体。

 どちらにせよ、魔力残量が残り少ないシュウゴに今できるのは、デュラハンの騎士道精神に一か八か賭けるのみ――


「うおぉぉぉ!」


 真正面からデュラハンへ突進。

 敵の動きが一瞬固まる。

 まるで、彼にも明確な意思があり、シュウゴの愚直な突進の意図を考えようとしているようだ。

 その答えが出たのかは分からないが、デュラハンは今まで通り、電撃のような突きを繰り出す。


 シュウゴは空中で上半身を後ろへ逸らすことによって、この数刻の間に何度も見た、その正確無比な突きを紙一重で避ける。

 そしてそのまま地面をスライディングし、デュラハンの足へ左腕を叩きつけた。


「これで、どうだっ!」


 そして、アイスシールドを発生させることで、氷結魔法によってデュラハンの脚甲を凍らせる。

 瞬時に関節部まで凍てつき、デュラハンは慌ててランスをシュウゴへ振り下ろしてきた。

 間一髪、シュウゴは肘のバーニアを前方へ噴射して緊急回避。

 同時に、左腕を地について体を支え、大剣で凍った敵の足元を切り払う。

 バランスを崩したデュラハンは、大きくのけ反り地面に片膝を着いた。


「俺のっ、勝ちだ!」


 シュウゴがすぐに立ち上がり、大剣の切っ先をひざまづいたデュラハンへ向ける。

 彼は上半身をシュウゴへ向けると硬直し、潔くランスと盾をその手から離し俯いたのだった。

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