決意
――ガギンッ!
シュウゴよりも早くデュラが飛び出し、大盾でアンドロマリウスの突進を受け止める。
少し押されるがすぐに力は均衡し、カウンターを見舞おうとデュラはランスの引く。しかし、突く寸前で大蛇の口から水ブレスが勢いよく噴射された。激しい音からも分かる、とてつもない高水圧だ。
デュラは勢いよく吹き飛ばされて横の壁へ激突。そのまま力なく倒れ込む。
ブレスはかなりの威力だったようで、盾と鎧の胴体がへこんでいた。
「デュラっ!」
駆け寄ろうとしたシュウゴだったが、敵の攻撃の手は緩まない。
アンドロマリウスは上半身の翼を広げると、その周囲に灰色の火を次々灯す。それはシュウゴたちへ一斉に飛来した。
シュウゴはアイスシールドを展開し防御。キュベレェも前方に光のバリアを展開し防ぐ。
「ぐぅぅぅ」
大きさの割に威力がある。それに、放たれてはまたすぐに火が灯るため、いつになっても攻撃が止まない。
キュベレェを見ると、悲しげに眉を歪ませ攻撃に耐えている。
「フェミリア、あなたはもう……」
その頬を一筋の涙が伝う。
フェミリアがまだ大蛇に操られているというのであれば、やりようがあった。しかし、あれは魔物そのものだ。一部がフェミリアの形を残していようと、それは個別のものではない。アンドロマリウスという魔物の一部なのだ。フェミリアだけを切り離すことなど、今さらできない。
それなら、今の彼女にできることは一つだけだ。
「っ!!」
キュベレェが厳格な表情でフェミリアを見据えた。王として今、倒すべき敵を。凶霧の呪縛から救うべき己の民を。
その目に迷いはなかった。
彼女は威厳に満ちた低い声でシュウゴへ言った。
「私があれを討ちます。シュウゴさん、力を溜める間援護してください」
シュウゴは頷くとキュベレェの前へ。
キュベレェはシュウゴの後ろへ下がり、バリアを解く。そしてその両手に光を収束し始めた。
アンドロマリウスの火の弾丸はさらに激しく降り注ぐが、
「させるかっ!」
シュウゴはアイスシールドに大量の魔力を注ぎ、氷結の範囲を拡大した。キュベレェを背後にかばい、ひたすら攻撃を受け続ける。結晶が削られ、再生させるたびに魔力を消費する。シュウゴの魔力とて無尽蔵ではない。エーテルで回復しながら現状を維持するが、限界がくるのも時間の問題だ。
しかも、敵にはもう一つの攻撃がある。
「まずいっ!」
大蛇が再び水ブレスを吐こうと、首を引いたのだ。
さすがにあれを受けては、氷結の盾も一撃で破られてしまう。額に冷や汗を浮かべ、必死に対処法を考えるが身動きのとれないこの状態でできることはほとんどない。
せめてものあがきだと、ブリッツバスターに帯電し始める。盾と大剣の二枚重ねで防ごうと言うのだ。
シュウゴが悔しげに眉を歪めたそのとき、大蛇の横からデュラが飛びかかった。
(っ!? いけるか!?)
たとえ奇襲が成功しなくても、水ブレスを消費させてくれれば次の溜めまで時間が稼げる。
しかし、そうは問屋が卸さない。
シュウゴたちへ向いていた火の弾丸がデュラを攻撃したのだ。全身を撃たれ態勢を崩したデュラは、大蛇の頭突きで吹き飛ばされた。
何度も跳ね、水溜まりで水飛沫を上げて転がると、彼は再び立ち上がる。
しかしもう間に合わない。
「ダメかっ……」
大蛇は再びシュウゴへ向いた。
そして、今度こそ高圧の水ブレスを放つ。
「――今ですっ!」
キュベレェが声を上げたのは同時だった。
シュウゴはわずかに溜めていた稲妻を横に払って火の弾丸を打ち消すと、横へ飛んだ。
その直後、高熱量を宿した光の矢と、高圧の水ブレスが激突する。
シュウゴは決着を見る前に、すぐさまバーニアを噴かせ、キュベレェを抱きかかえて後方へ飛んだ。背後から無数の弾丸が迫るが、ジグザグな軌道で回避。
やがて、灰色の火の雨が止むと、旋回して着地し戦いの結末に目を向ける。





