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ヒュドラ・ジ・ラント

 シュウゴとニアの体調が戻るまでの間、キュベレェはマーヤの案内で患者たちを治療して回った。彼女がマーヤと共に行動するというのはキジダルの案だ。そうすることで、民が疫病を治療した立役者としてマーヤの印象を植え付けるためだろう。

 ただ、疫病への対抗策が見つかったといっても、クエストの再開については慎重だった。キュベレェから聖域フリージアのことを聞いたヴィンゴールは、治療してくれたことへの深い感謝はあったものの、協力には慎重になっている。一般クエストの再会も腐敗の密林での一件が片付いてからになる可能性が高い。

 カムラの活気が少しずつ戻って来た頃、シュウゴはデュラを連れシモンの鍛冶屋を訪れた。


「シモン」


「シュウゴ! 元気そうで良かった!」


 シモンは鉱石類をいじっていたが、すぐに作業を止め声を弾ませながら立ち上がる。

  壁に立て掛けてある作りかけの武器や、奥に散乱している鉱石を見るに、仕事も少しずつ入ってきているようだ。


「おかげさまでもう元気さ。それで、急で申し訳ないけど、デュラの整備を頼みたい」


 シュウゴはそう言って、デュラに被せていた大きな黒い布をどける。

 その中身を見た瞬間、シモンは驚愕に目を見開いた。

 鈍い光沢を放っていた漆黒の鎧はもう、兜も左腕もなく全身ボロボロでかつての面影が微塵もない。


「こりゃまた派手にやられたんだな。素材はそこに置いておいてくれ。結構な金額になるだろうけど、そこは疫病を治すために戦ってくれたことへの感謝を込めて割引しとくよ」


「助かる」


「構わないさ。みんな死んじまったら商売どころじゃないからね」


 シモンは屈託のない笑顔を見せた。本当に嬉しそうだ。

 病を治療して回ったキュベレェの噂は瞬く間にカムラ中へ広まっていた。いわく、マーヤの古い友人であり、腐敗の密林で戦っていたところをシュウゴたちが助けたのだそうだ。

 討伐隊が情報屋に依頼して印象操作をしているので、シュウゴも違うとは言えない。

 シュウゴは鉱石などの素材の詰まった袋を脇のテーブルに置く。


「そういえば、前に依頼された装備の設計だけど、ちょっと問題が発生してねぇ……」


 王家の墓から戻ったときに開発を依頼した装備のことだ。

 シモンの話によると、素材として必要なイービルアイの収束器官の在庫がないようだ。クエストを紹介所に出していたが、誰かが完了させる前に休止となってしまったらしい。ただそれ以外の外装や内部機構は、ほぼ完成しているようだった。

 

「申し訳ない。早く手を打っておくべきだった」


「いや、仕方ないことだろ。俺も期限なんて言わなかったし……それじゃあ、あれを使うか」


 シュウゴはあまり気にする様子を見せなかった。

 すぐに代替案を思い浮かんだようで、シモンは首を傾げる。

 シュウゴは一旦家へ戻り、メイに事情を説明してトライデントアイを持ち出すと、午後また鍛冶屋へ戻りシモンに渡した。


「これで頼む」


「本当にいいのか?」


「ああ。ただ、腐敗の密林での戦いに持っていくかもしれないから、悪いけど急いでほしい」


「分かったよ……でも、こんなのどうやって使うんだ?」


「いや、今のところは使うことを考えてない。使わないで済むように立ち回るさ」


 シュウゴは曖昧に答えると、首を傾げるシモンに背を向け鍛冶屋を出た。

 そのときに謎の手記も借りていく。


 

 シュウゴの予想通り、手記には密林の蛇竜の情報が記してあった。

 その内容を読んだシュウゴは思わず絶句する。



 ~~()頭悪(ざく)(りゅう)『ヒュドラ・ジ・ラント』~~

 

 凶霧によって竜種の魂が融合した、九つの首を持つ猛毒蛇竜。

 それが存在するだけで大地は腐敗し毒の雨を注ぎ続ける。

 猛毒に侵されれば決して癒えることはなく、噛まれればたちまち死に至る。

 また、脅威の再生力を持ち、九つの首をほぼ同時に絶命させなければ再生が始まる。コアが各首の額の内側にあり、それが個別の心臓のようなもので、体を介して損壊した部位を再生するための力を送る。故に全て同時に破壊しなければならない。

 しかし凶暴な首に対し、その本体は『深淵の滝』の底に眠る。


「うそだろ……」

 

 つまり、シュウゴが倒したのは九つあるうちの一つに過ぎなかったのだ。あれを九体同時に殺さなければ、蛇竜は永遠に復活し続ける。キュベレェがどれだけ戦っても前に進まないわけだ。

 シュウゴはすぐに支度し、教会に泊まっているキュベレェの元へ向かった。


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