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文官の苦労

「――なんのご用でしょうか?」


 領主の執務室で応対したのは、キジダルとヴィンゴールの側近の二人だけだった。ヴィンゴールが病にかかっている以上、仕方のないことだが、彼を治療できると言ってもそれを簡単には信じてくれないのが厄介なところだ。

 応接ソファにマーヤとキュベレェが並んで座り、その後ろにシュウゴとグレンが立つ。向かいにはキジダルが座り、その背後にヴィンゴールの側近が立っている。相変わらず抜き身のナイフのように鋭い眼差しだ。元クラスBハンターは伊達ではないということか。

 マーヤが早速本題に入る。


「さっきも申しましたが、領主様の治療を任せて頂きたいのです」


「いったいなにをおっしゃっているのですか? この町一番の名医ですら打つ手なしという状態なのに、なにができるというのです? それに加治シュウゴ。なんの成果も出せず逃げ帰ってきておいて、どの面下げてここへやってきたのだ」


 キジダルは恨めしげにシュウゴを睨みつける。民の希望を打ち砕き、ヴィンゴールを追い込むきっかけになったシュウゴが憎いのだろう。ただの逆恨みではあるが、シュウゴはキジダルに同情を禁じ得ない。彼は以前よりも痩せ細り、頬もだいぶこけている。ヴィンゴールの代わりに必死で働いている証拠だ。

 だからシュウゴはなにも言わず、キジダルから目を逸らし、代わりにマーヤが応えた。


「彼なら十分な成果を上げましたよ」


 堂々と言い放ったマーヤはキュベレェへ目配せする。

 するとキジダルもキュベレェへ目を向け、疑うように眉を寄せ首をひねった。

 キュベレェはキジダルの視線を受け止め、丁寧にお辞儀する。


「キュベレェと申します。聖域フリージアを統治しておりました」


「フリージア? はて、そんな森が昔あったような……で、こちらのキュベレェ殿とマーヤ様はどのようなご関係なのでしょうか?」


「古い友人です」


 完全な嘘だ。さっき考えたばかりの陳腐な嘘。

 しかしマーヤが言うからこそ、その効果は絶大だ。

 キジダルはかなり懐疑的だが、直接真偽を確かめるようなことは言わない。


「それで、どのように病を治療するというのですか?」


「彼女が持つ神々の加護です。それがあれば、どんな病も治せます。現にシュウゴさんも密林で病を患いましたが、今ではこの通り完治しています」


 キジダルはなにも言い返せなかった。疑いようもない事実だからだ。

 そして彼は眉間にしわを寄せ、しばらく長考したのちに決断した。


「……分かりました。領主様のお部屋へご案内しましょう」


 そう言って立ち上がったキジダルには、いつもの覇気がない。

 シュウゴとグレンは思わず顔を見合わせる。

 相当な心労が溜まっているのは想像にかたくない。どんな方法であろうと、ヴィンゴールが治ってくれればそれでいいのだろう。


 しかしその後、キュベレェの加護の力でヴィンゴールの症状が改善すると、キジダルは今までにないくらいの喜びを見せたのだった。そしてキュベレェを疑ったことやシュウゴを(ののし)ったことを謝りはしなかったが、もう敵意の眼差しを向けることもなかった。


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