表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/246

沈みゆく

 それから絶望的な日々が続いた。

 疫病は容赦なく、カムラの人々からあらゆるものを奪っていった。体力と気力を奪い、正常な判断力と自尊心を奪い、そして明日をも奪っていった。

 ヴィンゴールと討伐隊は、死力の限りを尽くしたが、感染源の特定で大多数の兵力を使い切ってしまい、もうなすすべがない。状況を改善できない領主に民たちは絶望し怒り狂い、治安維持という名目で討伐隊と、資源を奪い合う民たちの衝突が相次いで始まる。

 討伐隊幹部たちも、広報長官、総務局長と病に侵されていき、挙句の果てにはヴィンゴールも倒れたのだった。今のカムラはシスターマーヤの人徳だけでどうにか崩壊を免れている。

 カムラにもう未来がないことは、子供にだって分かった。


「――もう嫌です……」


 メイが家で座り込み涙を流していた。目の前にはシュウゴとニアの布団が並んでおり、二人は静かに寝息を立てている。今までだったら、部屋の隅に銅像のように立っていたデュラがメイの頭を撫でてくれたが、彼はもういない。

 自分だけが病にかからないというのは、メイにとってこの上なく苦痛だった。そして、今のカムラの惨状が凶霧によって壊滅したときの故郷ウォルネクロと重なるのだ。彼女の精神が擦り切れるのも時間の問題。

 だというのに、アンもリンも感染してしまったという。疫病は広がり続け誰も完治しない。

 メイは自分ひとりでもと、フィールドへ出ようとしたが転移石が完全に停止させられていた。これでは、もしデュラが生き延びたとしても帰って来れない。


「お兄様、ニアちゃん、デュラさん……」


 メイはまたみんなで楽しく暮らせる日がくるようにと、ただただ願い続けた。

 彼女がしばらくシュウゴの机に突っ伏して泣いていると、家の扉がノックされた。メイは慌てて目元を拭うと、入口へ駆け寄り扉を開ける。


「メイくん、こんにちは。少しお邪魔していいかな?」


 そこに立っていたのは、金の短髪にいかつい顔をした大男グレンだった――


 シュウゴは長い間悪夢にうなされていた。

 たくさんの怨嗟の声が耳に響き脳を揺らす。巨大な悪魔ダンタリオンが現れ、体から垂れ流す凶霧の原液でシュウゴを飲み込まんとしていた。

 もがく。

 絶望の中で目的もなく、ただ死にたくないと必死にもがく。

 それをひたすら続けた。

 続けて続けて……もう疲れてしまった。

 そのまま溺れてしまった方が楽じゃないかと思い、もがく手を止める。このまま凶霧の魔物となってしまえば苦しみから解放されるのではないか、そんなことを思ってしまった。もう楽になろうと、ずぶずぶと沈んでいく。

 やがて上半身もほとんど沈んだとき、シュウゴの手を掴む者がいた。それは、騎士の身に着けるような籠手で、シュウゴを力強く引っ張り上げる――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ