気高き少女
自宅に戻ったときにはもう夜になっていた。
シュウゴはニアが眠りにつくのを待ってから、メイとデュラに全てを話した。感染源の正体と腐敗の密林で調査することについて。
もちろんメイもデュラは、生身の人間であるシュウゴが密林へ行くことには激しく反対した。
それでもシュウゴは譲らなかった。
長い悶着の末、シュウゴのニアを助けたいという熱意に二人ともとうとう折れたのだ。
シュウゴは最後に、ニアの安らかな寝顔を見て、
「必ず助けてやるからな」
と強い誓いを立て眠るのだった。
翌日、自宅で準備を整えたシュウゴとデュラ。
病人を置いていくわけにいかないので、メイにはニアの看病を頼んだ。彼女にとって酷な選択だった。シュウゴと共に行けばニアの安全を脅かすことになり、ニアについていればシュウゴの危険度が上がる。
だからメイはシュウゴに行ってほしくなかったのだ。
それでもニアを放置するわけにはいかず、メイは文句の一つも言わずに従った。
「――くれぐれもお気を付けて」
メイが家の入口でシュウゴとデュラを見送る。
「大丈夫、任せてくれ」
シュウゴが朗らかな表情で頷き、クエストへ向かおうと背を向けた、そのとき――
「――柊く~ん?」
部屋の奥で弱々しいニアの声がした。
そちらへ振り向くと、ニアが一人で立ち上がっている。しかしその足は震え、額には大量の汗をかいていた。
メイが慌ててニアの元へ歩み寄り、体を支えようとする。
「ニアちゃん、なにしてるの」
「それは~こっち、の……セリフだよぉ」
そう言ってニアはメイの前に手を突き出し、補助を拒んだ。
そしてすぐに布で口元を押さえ咳き込む。
「ニアっ!」
「……いいんだよ。私は平気だもん」
「な、なにを……」
ニアの突然の言動に、シュウゴは戸惑いを隠せない。
しかしニアは苦痛で顔が歪むを我慢しているのか、頬をヒクつかせながらも俯きがちに言う。
「クエスト、行くんだよね~? メイも……連れてってよ」
「ニアちゃん、どうして……」
「柊くんが危ない目に遭うの嫌だよ。メイだって行きたいのに、私のせいで行けないのはぁ……嫌だもん」
シュウゴは目を見開く。唇が震えた。
ニアは昨夜の相談を聞いていたのだ。
その上で今、自分にできることをしようとしている。
「ち、違う! ニアのせいじゃ――」
「――違くないよ。ね? 私は平気だから、三人で戦ってよ」
ニアは顔を上げまっすぐにシュウゴを見つめる。その瞳に宿る意志は強く、竜としての気迫が確かにあった。
シュウゴはしばらく黙って逡巡した。
その間、ニアは苦しいはずなのに、シュウゴから目を逸らさない。
そして、とうとうシュウゴは決断した。
「……分かった。すぐに帰るよ」
「うん。お昼寝して待ってるね~」
ニアは頬の筋肉をヒクヒクさせながら無理やり笑みを作る。年端もいかない女の子にこんな顔をさせるなど、シュウゴは自分の無力さを呪った。
まだニアへなにかを言おうとするメイに目配せし、すぐに出発の準備をさせる。
「――それじゃあ、行ってきます」
「うん~行ってらっしゃい~」
シュウゴは涙が込み上げてくるのをなんとかこらえ、ニアへ背を向ける、
そして断腸の思いでメイとデュラを連れ、腐敗の密林へ向かうのだった。
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