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感染源の正体

「君は『紫色のアビススライム』を見たことがあるか?」


「えっ!? あ、あります……」


 思いもよらぬ問いにシュウゴは困惑する。

 それは先日の沼地で見たものだ。通常は灰色半透明だからなにかがおかしいと、心のどこかで引っ掛かっていたのだ。しかし疫病の蔓延でそれどころではなく、すっかり忘れていた。


「実はな、廃墟と化した村や竜の山脈を始め、至る所でそれが確認されたんだ。いち早く気付いた討伐隊は、秘密裏に紫のアビススライムについて調査を行った。そうしたらな、現地調査をしていた実働隊は全員が感染したんだよ」


「んな!?」


 シュウゴの目が驚愕で見開かれる。

 その結果が意味することは、つまり――


「――紫のアビススライムが感染源で間違いない」


 目の前が真っ暗になるようだった。

 つまり、疫病の治療のためにとクエストに赴くことは、むしろ逆効果で感染するリスクが高いということ。

 これでクエストが休止されたことにも理由がつく。

 そして、


(俺のせいだ。俺のせいでニアがっ)


 シュウゴの顔が絶望に歪み肩が震える。

 ニアが疫病にかかったのは、沼地でシュウゴをかばってアビススライムに接触したせいだ。

 確かに診療所や孤児院は危ないのかもしれない。だがそれよりも、カムラの外へ出ることこそが最大のリスクだったのだ。

 シュウゴは拳を強く握りしめる。不甲斐ない自分にとてつもなく腹が立っていた。

 グレンはシュウゴの様子を見てそれでも続けた。


「我々討伐隊はたとえ仲間が病に倒れようと、限界を迎えるまで必死に調査を続けた。そして、紫のアビススライムの発生源を突き止めることに成功したんだ」


「っ!」


 シュウゴは弾かれたように顔を上げる。


「それは汚染された都市の北にある、かつては『聖域』と呼ばれた森だ。今の惨状から、フィールド名『腐敗の密林』と命名した。そこでは病の源である紫色の雨『紫雨(しう)』が降り続けていて、それがアビススライムたちを変異させているようだ」


「そこなら、疫病に有効ななにかが見つかるかもしれない。そういうことですか」


「そんな簡単な話じゃない。そこで雨に打たれたその時点で病に侵されるんだ。だから調査部隊も全員が病に伏した。君と懇意にしているクロロもだぞ」


 グレンが険しい表情で諭すように言った。

 クロロが倒れたことを知ったシュウゴは固まり、視線を落とした

 グレンもなぜか続きを話すか迷うようにシュウゴから目を逸らす。

 見かねたキジダルが変わりに告げた。


「それでだ。疫病にかかる恐れのない者を行かせようという意見が出た。どういうことか分かるな?」


 キジダルの冷酷な視線がシュウゴを射抜く。

 言わんとしていることは分かった。メイとデュラに行かせようと言うのだろう。

 打開策としては悪くない。

 それに、ここで断ればカムラの敵とみなされても文句は言えない。

 目を光らせるキジダルへシュウゴは気丈に言い放った。


「俺が行きます!」


「なに!?」


 こればかりはキジダルですらも目を見張った。

 幹部たちは絶句し、ヴィンゴールはこの答えを予想していたように厳格な表情を変えない。

 グレンは勢いよくシュウゴの両肩を掴んだ。


「分かっているのかっ!? あの地に足を踏み入れれば間違いなく病に侵される。あそこでもし打開策が見つからなければ、君も病に侵されいずれは……」

 

「大丈夫ですよ。大事な仲間の命がかかってるんです。なにを犠牲にしてでも必ず疫病の打開策を見つけてみせます」

 

 言い切ったシュウゴの表情は晴れ晴れとしていた。

 やっと自分にできることが見つかったのだ。

 尻込みなどするつもりは毛頭ない。

 すると、成り行きを見守っていたゲンリュウがここに来て初めて頬を緩める。


「少しはマシな顔になったか――」


 この日、シュウゴは討伐隊から正式に、腐敗の密林調査の依頼を引き受けるのだった。


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