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猛毒は氷を溶かす

 三人はしばらく歩き、瘴気が濃くなってきたところで足を止めた。

 前方を見渡すと、広い毒沼が多数点在している。

 浄化マスクをしているからと言っても、直に足を浸せば皮膚が(ただ)れかねない。


「もしコカトリスがこの先にいるとなると……」


「ええ、引き返すしかなさそうです」


「ここまで来て引くのもなぁ……」


 アンが嫌そうに顔をしかめる。

 シュウゴのバーニアを使えば、一人で先に進むことは可能だが、単独行動はリスクが高くシュウゴとしては避けたかった。

 欲に目が眩んで突き進んでも、死んでは意味がない。

 三人は口々に残念だと呟きながら踵を返す。


「………………ん?」


 歩き出してすぐにリンが足を止めた。

 アンとシュウゴも足を止めてリンを見ると、彼女は眉間にしわを寄せ耳がピクピクと小刻みに揺れていた。

 なにかしらの音を聞き、その正体を確かめるべく耳を澄ましているようだ。


「……来ます」


 リンは神妙な表情で呟き背後へ振り向く。

 彼女が斜め上空を見据えていると、一体の魔物が飛来した。


「あれは!?」


 それはまっすぐにシュウゴたちの元へ飛んできて、近くの岩壁の上に降り立つ。

 シュウゴたちをじっくり見下ろすその魔物は、全身が紫色の羽毛で覆われ、鋭く黄緑色のくちばしに頭には燃えるように真っ赤なトサカ。

 そのでっぷりした体を支えている二本の足の後ろ、尻尾の部分からは深緑の光沢放つ鱗に覆われた蛇の尻尾を伸ばしていた。

 クラスBモンスター『コカトリス』だ。


「目を見ちゃダメだ! リン、閃光を!」


 シュウゴは叫び、唖然と棒立ちで見上げている二人の前に出た。

 そして左腕をコカトリスへと突き出しアイスシールドを発生させると、その氷を通してコカトリスの姿を捉えた。


 シュウゴに指示されたリンは目を閉じ、白魔術の杖を掲げると魔力を溜め始める。アンはシュウゴのすぐ背後に走り寄り、アイスシードの内側からコカトリスを見上げた。

 情報通りであれば、コカトリスと至近距離で目があえば石化するという。

 対策としては直に見ないことと、近づかないこと、そしてその目を潰すことだ。


「コォォォォォ!」


 コカトリスはシュウゴたちを威嚇するよう吠えると、足場を蹴り一直線に飛び掛かって来る。

 シュウゴはシールドへの衝撃に身構えるが、リンの魔法の方が早かった。


「ホワイトスパーク!」


 一瞬で周囲がホワイトアウトする。


「カアァッ!」


 それをもろに食らったコカトリスは、シュウゴたちのすぐ前方へ急落下し、沼の泥を激しく飛散させた。

 倒れたまま唸り声を上げるコカトリスは、泥の中で両足をジタバタともがく。


「今だっ! シュウゴは尻尾を斬れ! 私は頭を叩き斬る」


 アンが叫ぶと、シュウゴは氷結の盾を霧散させ左肘のバーニアを左斜め後ろ、腰のバーニアを背後へ噴射し、コカトリスの右側面から尾の方へと回り込む。

 アンはまっすぐコカトリスの頭へと駆け、両腕で斧を振り上げた。


「くらえぇぇぇ!」


「――カッ!」


「なに!?」


 アンの斧がコカトリスの頭を叩き割るその寸前、コカトリスは目を見開いた。それを目の前で直視してしまったアンは、驚愕の表情を浮かべたまま石化する。

 文字通り、全身が硬直し肌が石膏のように白く変色していく。


「アン!」


 コカトリスは起き上がると同時に頭を振り上げ、石化したアンを突き飛ばす。その後方にいたリンは突然の事態に身動きがとれず、


「きゃあぁぁぁっ!」


 石化したアンの体を真正面から受け倒れる。当たり所が悪かったのか、身を起こしたリンの額からは一筋の血が流れていた。

 コカトリスの背後へ回っていたシュウゴも、尻尾を振るわれ叩き飛ばされる。


「ぐあぁっ!」


 なんとか両腕で顔を守ったものの、泥の上をゴロゴロと転がった。

 悠然と立ち上がったコカトリスが羽を広げ、リンとアンの元へ飛び掛かるも、シュウゴがすぐに立ち上がり背面噴射でコカトリスへ急接近する。


「このぉっ!」


 シュウゴが横から近づいてきたことに気付いたコカトリスは、羽をたたみ体を丸めるようにしてシュウゴにぶつかる。

 接近とともに横薙ぎしたグレートバスターも、コカトリスの羽毛を浅く裂いたところで体当たりの勢いに負け、シュウゴごと突き飛ばされる。

 シュウゴがアンとリンの目の前へ着地すると、コカトリスはその場で静止した。


「リン、早くアンに浄化魔法を! 石化を解くんだ!」


 シュウゴは前を向いたまま叫ぶ。

 リンは「は、はいっ!」と慌てて返事をすると、杖に魔力を溜め始めた。

 しかしそれを見過ごすコカトリスではない。


「コオォォォォォォォォォォォッ!」


「くっ!」


 コカトリスの口から漆黒と深緑の入り混じった、猛毒のブレスが放たれる。

 シュウゴは反射的にアイスシールドを展開するが――


「――んな!?」


 猛毒による腐食は深刻で、氷がみるみる溶けだした。

 そしてそのままシュウゴの左腕までも溶かしていく。

 コカトリスのブレスが止んだときには、左腕は肩の下から完全に溶けてなくなっていた。


「しゅ、シュウゴさん!」


「シュウゴ!?」


 リンの叫びと、アンの叫びがシュウゴの耳に届いた。アンは無事に回復したらしい。


「俺が囮になる。二人とも、逃げろっ!」


 シュウゴは叫び、コカトリスの足元へと駆ける。

 コカトリスが足を振り上げるが、シュウゴは真横へ跳び回避。コカトリスがブレスを吐くがバーニアを駆使して縦横無尽に回避する。

 それを見たアンとリンは悔しそうに顔を歪めるが、魔方位石を取り出して転石の方向を確認すると駆け出した。


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