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疫病の猛威

 それからすぐに、疫病は猛威を振るった。

 一人として回復者はなく、患者の看病をしていた教徒を始め、ハンターや討伐隊にも感染者が出始める。


「――くそっ……」


 その日の夜、広場の掲示板から戻ったシュウゴは自宅で拳を握りしめていた。

 とうとう疫病による死者が出たのだ。

 これまでたくさんの薬草が集まり、治療に使われたがついに完治には繋がらず、尊い命が犠牲となった。犠牲者は商業区で雑貨屋を営んでいる男の父親だ。


「お兄様……」


 メイはかける言葉を見つけられず、瞳を揺らしながらシュウゴを見つめている。

 いつもは陽気なニアですらも、今はなにも言わず下を向いていた。

 今のニアは、シュウゴの願いで孤児院の手伝いに行かず家でジッとしていた。感染の可能性を減らすために。これでは彼女でなくとも気が滅入る。


「ごめん。とにかく今のカムラは疫病が蔓延していて危ない。ニアとデュラは変わらずここで待機。メイは十分注意しながら診療所と孤児院の手助けをしてやってくれ。くれぐれも――」


「――大丈夫、分かっていますよ。いくら私が感染しないからといって気は抜きません。ここに菌を運んでお兄様とニアちゃんを危険にさらさないよう、細心の注意を払います」


 シュウゴは強く頷いた。

 やむを得ない判断だった。

 本来であればメイもここにいてもらった方が病原菌を運ぶ心配がなく安全だ。しかし教会にとっても、アンデットであるが故に感染しない彼女は大きな支えになる。

 だからメイにはカムラの危機を救う手助けをしてもらおうとしていた。

 彼女自身もそう望んだのだ。


「お二人は大丈夫ですか?」


 メイが心配そうに問うが、シュウゴもニアも大丈夫だと短く答えた。


 それからしばらく、設計図を描いていたシュウゴは、ニアとメイが寝静まったのを確認すると、作業の手を止め立ち上がった。


「デュラ、明日も頼む」


 シュウゴが静かに言うと、壁際に立っていたデュラはシュウゴへ顔を向け、深く頷いた。

 今のデュラは買い出し担当であり、有事の際のサポーターだ。ニアに異変があったときはすぐに診療所へ運ぶ手はずになっている。

 疫病による異変はいくつかあり、まずは乾いた咳と高熱が出る。次に全身の血管に石が流れているかのような激痛があり、そして決定的なのは吐血することだ。

 

(一刻も早く終わってくれよ)


 シュウゴは柄にもなく祈った。祈る相手など知りもせずに。

 そして、ニアとメイが二人仲良く並んで寝ているその横へ、少し間を開けて寝転がり目を閉じるのだった。


 翌日、シュウゴがいつも通り薬草採取のクエストを受け紹介所を出ると、領主の館の前に領民が集まっているのが遠目に見えた。

 

「なんだ?」


 なんだか不穏な空気を感じ取ったシュウゴは第二教会ではなく領主の館へ歩いていく。

 近づいていくと、皆の顔がよく見えた。集まっているのは主に商業区で商売をしている雑貨店や八百屋の店主とその妻、他は家を失った難民たちだ。その誰もが眉間にしわを寄せ、口々に文句を言っている。

 彼らの前、領主の館の入口の前に立つのはキジダルとグレン、護衛の騎士が三人だ。


「みなさま、落ち着いてください。疫病の調査は今このときも討伐隊が身命を賭して行っているところでございます」


「この間も同じことを言ってたろうが!」

「そうだ! なにも変わっていないじゃないか!」

「もう死人が出てるんだぞっ!」


 キジダルの説明に納得のできない領民たちががなり立てる。

 気持ちはシュウゴとて同じだ。それにもし身内に感染者がいたのなら、対応を急いで欲しいのは当然のこと。

 シュウゴは黙って成り行きを見守る。


「私どもの力不足で、領民のみなさまに大変ご迷惑をおかけしていることは心からお詫びします。ですが、どうにもならないのも事実。どうか今しばらく辛抱して頂けないでしょうか」


 キジダルはそう言って深く頭を下げた。仰々しい態度ではあるが、表情はいたって冷静であまり感情がこもっているようには見えない。

 それは領民たちも感じているのか、まだ言い足りないとさらに不満をぶつける。

 シュウゴがやるせない気持ちでただ黙って成り行きを見守っていると、グレンと目が合った。

 それでシュウゴは我に返り、グレンへ会釈をするとクエストへ向かうことにした。なんだか面倒ごとに巻き込まれそうな予感がしたからだ。


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