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予感の的中

 それから数日。

 シュウゴを含めたハンターたちの努力も虚しく、疫病は徐々に感染者を増やしていった。

 シュウゴの嫌な予感は的中してしまったのだ。


 夕方、シュウゴは情報収集のために広場の掲示板に来ていた。

 他にも情報を得ようとやってくる領民がちらほら。

 密集の危険さを心得ていたシュウゴは、人が少なくなるのを見て掲示板を確認した。


「なす術なしか……」


 疫病の感染者は既に十人。

 感染した人たちは特に濃厚接触したというわけでもなく、各々の感染経路は不明のようだ。

 未だに回復した人は出ておらず、沼地や洞窟で採った薬草なんかは症状緩和程度にしかなっていない。

 シュウゴの背筋に冷たいものが走る。

 デジャブを感じるのだ。


「パンデミック……」


 何気なく呟いたシュウゴは、その単語の意味を思い出し頬を歪める。

 嫌な予感をひしひしと感じていた。

 家を失って辛い生活を強いられている領民が多くいる中で、疫病の蔓延は避けたい事態だ。

 食糧の備蓄などあまりなく、損壊した施設や家の修復だって人手が足りない。


「………………」

 

 シュウゴがしばらく掲示板の前に突っ立っていると、横から声をかけられた。


「――柊くん~? 怖い顔してどしたの~?」


「なにかあったんですか?」


 シュウゴがゆっくり振り向くと、夕日に照らされて美しさを増す少女たちの姿があった。

 メイとニア。

 今日の孤児院での仕事は終わったようだ。

 シュウゴはホッとしたように微笑む。


「二人ともお疲れ。仕事の方はどうだった?」


 シュウゴはそう言いながら、抱きついてきたニアの頭を優しく撫でる。

 そうしていると、シュウゴもなんだか落ち着いた。

 ニアはシュウゴに答えず「えへへぇ」と幸せそうに頬を緩めた。

 メイが答える。


「今日から孤児院だけでなく、診療所の方もお手伝いするようになりました」


「そうなの? それはまたどうして?」


「例の疫病のせいで、患者さんを看護する寝台が不足してるみたいなんですよ。それで、孤児院の空いてる部屋も使うって話で、孤児院の人たちも手伝っているんです」


「そうだったんだ。でも感染の可能性があるんじゃ……」


「一応はマスクしたり、極力接触を避けて、浄化魔法で衛生面も万全にしてるので、それなりに対策はできてますよ」


「そっか。ニア、十分気をつけるんだぞ? 君はメイやデュラと違って感染したらただじゃ済まないだろうから」


 シュウゴは真剣な表情でそう言うが、ニアはあまり気に留めていないようだった。

 

「そうする~」


 シュウゴは内心で恐れていた。

 この小さな町で疫病が広まったりしたら、すぐに食糧は底をつき治安だって悪くなるだろう。そうなればジリ貧。やがて訪れるのは……

 だからこそ、もっとフィールドに出て、誰よりも素材や資源を集めようとシュウゴは心に決めた。

 それはそうと……


「メイが大人しいね~?」


「そう、だなぁ」


 ニアがシュウゴを見上げて首を傾げる。

 シュウゴも少し思っていたことだ。

 いつものメイだったら、ニアの過剰なスキンシップに反応してくるものだが、今は穏やかな表情でこちらを見つめている。

 不審に思ったニアがむぅと眉を寄せ、シュウゴを問いただした。


「二人っきりのとき、なにかあった~?」


「いや、そんなことはないけど」


「本当~?」


 ニアが半眼でシュウゴの顔を覗き込む。

 彼女が言ってるのは、王家の墓でのことだろう。

 もちろんシュウゴに心当たりはない。

 すると、メイが穏やかに告げる。


「ニアちゃん、そんなこと聞くのは野暮です。私とお兄様だけの秘密ですよ」


 そう言ってメイは可愛らしく片目を閉じ人差し指を口に添えた。

 小悪魔的な雰囲気な仕草でメイの魅力をよく引き出している。まるでなにかあったと言っているようなものだ。

 ニアがシュウゴとメイを交互に見て、むぅと頬を膨らませた。


「やっぱりなにかあったんだ~!」


 シュウゴが「えぇ」とメイに批難の眼差しを送るがメイは「さぁ帰りましょう」と余裕たっぷりの笑みを浮かべ、シュウゴの手をとるのだった。


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