初の共闘
三人は足元に注意し、極力沼を歩かないように進んでいく。
毒の沼は濃い紫色だから分かりやすいが、底なし沼は見た目だけでは判断がつかない。
中にはアビススライムの群れが集まって沼のようなものを作っている光景もあった。
「二人とも、敵です」
真っ先に魔物の気配を察知したリンが緊張に声を震わせる。
アンとシュウゴが立ち止まり周囲を見渡すと、前方から二体の魔物が現れた。
一体はカトブレパス。もう一体は初めて見るが、掲示板の情報通りであれば『アラクネ』だ。
アラクネは下半身が巨大な蜘蛛で上半身が女。
目は複眼で背中には蝶の羽という中々にえげつない見た目だった。
それが歩くたびに、尖った蜘蛛の足が地面を抉り、泥を撒き散らす。
これもキメラと言っていいのではないかと思うシュウゴだったが、前衛として先行しようと魔力を込め地を蹴る。
だがすぐにリンが叫んだ。
「――二人とも、目を閉じてください!」
その指示に困惑したシュウゴは、すぐに足を止め背後を振り返った。
アンは武器を構えたまま立ち止まって目を閉じ、その後ろでリンが杖に魔力を集中させていた。
「……了解」
シュウゴはリンの魔法を信じ、ぎゅっと目を閉じる。
カトブレパスとアラクネが近づいて来る足音がよく聞こえる。
「ホワイトスパーク!」
凛とした声と共に光が放たれた。
(これはフラッシュボムを投げたときと同じ……)
シュウゴがまぶたに強烈な光を感じていると、背後でアンが駆け出した。
すぐにシュウゴも目を開け、バーニアを噴射する。
目を閉じ唸りながらよろめいているカトブレパスの背へ、アンが跳び上がる。
それを見たシュウゴは、目を抑えながら後ずさり甲高い悲鳴を上げているアラクネへと急加速。
「「はぁぁぁぁぁ!!」」
上空から振り下ろされたアンの斧はカトブレパスの背から心臓まで大きく叩き斬り、シュウゴがまっすぐに突き出したグレートバスターはアラクネの心臓を確実に貫く。
「グワァァァァァンッ」
「キシァァァァァ!」
二体とも断末魔の悲鳴を上げて倒れる。
「す、凄い……」
あまりに簡単に魔物を倒してしまったシュウゴは気の抜けた声を上げる。
アンは肝がすわっており、既に素材の回収を始めていた。
シュウゴもアラクネの羽を剥ごうとするが――
「きゃぁっ!」
後方でリンの悲鳴が上がった。
すぐに振り向くと、その背後にはアラクネの姿。
まだもう一体隠れていたのだ。
「リン!」
シュウゴがすぐに駆け出しバーニアの出力を上げる。
アラクネは口や指から白い糸を出し、リンの足、右腕と縛っていく。
リンは杖を落とし、首にも糸が巻かれ、強く締め上げられていく。
「くそっ!」
シュウゴが焦りに歯を食いしばった。
このままでは、シュウゴの剣が届くよりも先にアラクネがリンを絞め殺す。
しかし、首を絞められ苦しいはずのリンは表情を消していた。
「……ブレードウインド」
突如、リンの手元で風が舞ったかと思うと、アラクネの糸が切れていた。
なにが起こったのか理解できないアラクネは、直接攻撃に出ようと鋭い足の爪をリンへと振り下ろす
「――キシェェェッ!」
悲鳴を上げたのはアラクネだった。
リンへと振り下ろされた足は関節部から綺麗に切断されていた。
すぐ後ろまで接近していたシュウゴはようやく気付く。
彼女の左手に小さな杖があったことに。
「シュウゴさん、お願いします!」
「了解!」
リンが跳び退き、シュウゴがアラクネに大剣を振り下ろす。
しかしアラクネは指から大量の糸を出して頭上に重ね盾を作る。
「ちぃっ!」
糸の強度は想像以上で大剣は受け止められていた。
リンの風魔法で切れたのは、糸がまだ薄かったからかもしれない。
シュウゴとアラクネが押し合っていると、突然シュウゴの肩に多大な重圧がかかり、シュウゴは後ろによろめいた。
一瞬だけ肩に乗った足はすぐにシュウゴを蹴り飛ばし宙を舞う。
「んなっ!?」
その直後、アラクネの後ろにアンが着地した。
「くらいなっ!」
「キシァァァァァ!」
アラクネは絶叫し、女の上半身と蜘蛛の下半身が分離し崩れ落ちた。
そしてすぐに動かなくなる。
ため息をついたシュウゴは、肩の泥を払いながら礼を言った。
「……助かったよ。ありがとう、アン」
「こんくらいどうってことないさ」
アンは「にしし」と気さくに笑う。
リンも二人の元へ歩み寄った。
「やりましたね」
「リンも凄いな。魔法で閃光を放ったり、風で魔物を斬るなんて」
「ホワイトスパークは、白魔法の発光の性質を利用してるので。あと風の杖は、普通に使っても魔物に通用しないので、リーチを捨てた分、風を圧縮して威力を上げているんですよ」
「なるほど、参考にさせてもらうよ」
「? なんの参考ですか?」
「あっいや……戦いの、かな?」
シュウゴは適当に笑って誤魔化す。アンもリンも首を傾げていたものの、すぐに素材の回収を始めた。





