いつかきっと
その後、シュウゴは家へ戻る前にシモンの鍛冶屋へ向かった。
実は、幽霊船で帰る際に練っていた装備の構想があり、朝一で設計図に落とし込んだのだ。
いつも通り、鍛冶屋の暖簾をくぐると先客がいた。
「シュウゴくん! やっぱり来たんだ」
そう言ってぱぁっと花が咲いたように笑みを浮かべたのはハナ。座っていた丸椅子から立ち上がり、シュウゴの方へ歩み寄る。
シモンの方は鋳鉄炉の前に座ってシュウゴへ顔を向け、つまらなそうにぶすっとした表情を浮かべている。
シュウゴは目を丸くした。ハナはいつも、装備の手入れを顔見知りの武器屋に依頼しており、シモンの元にハナがいるのを見るのは初めてだったのだ。
「やあハナ。ここにいるなんて珍しいね。シモンにアギトの手入れでも頼んでたの?」
「ううん、違うよ」
「え?」
シュウゴはわけが分からずシモンへ「なにどゆこと?」という視線を向けると、シモンは眉をピクピク痙攣させ「あぁん?」となにやらキレ気味の眼差しを返してきた。シュウゴは見なかったことにして再びハナに視線を戻す。
「ならどうして?」
「あっ、いや……シュウゴくんが無事に帰って来たのを確かめようと家に行ったら、ニアちゃんたちしかいなかったから……」
ハナは急に目を泳がせ歯切れが悪くなる。
つまり、シュウゴに会いに行ったら当の本人がいなかったから、適当に寄り道していたのだとシュウゴは理解した。
しかし、シュウゴの一番の理解者であるシモンには、毎度のことながらシュウゴにちゃんと意図が伝わっていないのだと分かっていた。
「はぁ、つまり、ハナさんはお前を待っていたんだよ、シュウゴ」
「え? そうなの?」
「シ、シモンさん! 言わない約束でしょっ!?」
シモンの告げ口にハナが顔を真っ赤にして声を上げる。
しかしシモンは特に表情を変えず、
「ごめん、口が滑った」
棒読みで返した。
ハナは恨めしげにシモンを半眼で睨むと、シュウゴを見てぷいっと顔を逸らした。頬は瑞々しいリンゴのように赤くなっている。
「か、勘違いしないでよね! ケガしてないか心配してただけだから!」
「……うん?」
シュウゴには一体なにを勘違いすればいいのか分からなかった。
しかし別の意味で頬が緩む。
(ツンデレだぁ……久々にラノベが読みたい……)
シュウゴが懐かしさに頬を緩ませていると、背後でシモンが盛大なため息を吐いていた。
「まったく、楽しくない役を演じさせられるこっちの身にもなってくれよ……」
それからハナは、強引に話を変えようとシュウゴを近くの椅子に座らせ、幽霊船騒動のことを根掘り葉掘り聞いてきた。
シュウゴは幽霊船に乗ってから王家の墓に至り、メイの兄と戦って不死王リッチの力を受け継いだことまで、詳細に語った。
「――そんなことがあったんだ。メイちゃんも辛い思いをしたんだね」
ハナが沈痛の面持ちで眉を歪める。メイの悲しみに共感してくれただけでも、シュウゴには嬉しかった。
シモンも真剣に聞き入っていたが、最後まで聞き終えてからは指を顎に当て思案顔になった。ウォルネクロという言葉に聞き覚えがあったようだ。
「……ウォルネクロといえば、この大陸の最南端にあったという国だ。君たちはどうやら、幽霊船でここから遥か南東に運ばれたみたいだな」
「知ってるのかシモン!」
「小さい頃、そんな名前の国があったって聞いたことがある。確か位置的には、汚染された都市をまっすぐに南下していったところにあったと思う」
「そうだったのか。なら、またいつか辿りつけるかもしれないな」
「そのときには、みんなでメイちゃんのお兄さんのお墓参りに行きましょう」
ハナの提案にシュウゴは強く頷く。
いつかきっと、そんな日が訪れることシュウゴは願った。
シンもきっと喜んでくれるはずだ。





