拳に乗せて
シュウゴは迸る稲妻を視線に乗せ、シンを睨みつける。
「なに? まだやるっていうのか!?」
未だ衰えない闘志の宿る瞳を前に、シンは初めて怯んだ。
シュウゴは悠々と歩き出す。
地面から手が突き出すが、雷に弾かれ足を掴めず。
魔法に弱い霊体はもはや近づくこともできず、火の玉も放電で相殺。
いつの間にか墓場を歩いていた、骸骨とミイラが一斉に襲い掛かるが、
「邪魔だ」
稲妻を纏ったブリッツバスターを振るい、迅雷の如き素早い動きで切り伏せていく。
そして地面に大剣を突き立て、盛大な落雷を起す。
――ズザアァァァンッ!
その一帯は焼け野原と化した。
「ならば!」
シンは骸骨を自分の元へ下がらせると、右手をシュウゴへと突き出す。
すると、その手に吸い込まれるように火の玉と霊体が集まっていく。
それは瞬く間に、建物一つ覆うほどの巨大な炎球へと拡大した。
「やってやる」
シュウゴもその場で止まりブリッツバスターを天高く掲げると、刀身にありったけの雷を収束し始めた。
そして――
「「――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
極大の炎と雷が激突する。
青白く眩い光が墓場を包み、盛大な爆発音が轟いた。
やがて巨大な力の余波が収束し、静寂が場を包む。
シュウゴは全ての感覚が麻痺し、自分が今どんな状況か、結末がどうなったのかさえ分からない。
「っ!」
突然力の反動が押し寄せ、激しい立ちくらみによって片膝を地に着く。
シュウゴが左手を胸に当てると、ドクドクと激しく脈打っていた。
(そうだっ、あいつは?)
敵の顔が脳裏によぎり、シュウゴは顔を上げる。
すると――
「なに!?」
シンが自らの棺の元を離れ、駆け出していたのだ。シュウゴの元へと一直線に。
その鬼気迫る表情には溢れんばかりの闘志を漲らせ、決着はまだ着いていないのだと語っている。
「はははっ」
シュウゴは場違いにも声を上げて笑う。
あまりにも可笑しかったのだ。
不死の王として魂を操り、その座を守り続けておきながら、最後は妹のために肉弾戦を仕掛けようというのだから。
体力は既に限界をむかえていたが、内心では闘志が燃え滾っていた。
「シンお兄様、シュウゴお兄様……」
遠くから心配するようなメイの声が届いた。
その瞬間、メイとの楽しかった記憶がシュウゴの頭を駆け巡る。
(――負けられない)
シュウゴは腰を落とし拳を前に構えると、すぐそこまで迫っていたシンを見据える。
彼の周囲には骸骨も霊体もなく、その身一つで突貫を仕掛けてきたのだ。
シュウゴも武器を使うような無粋な真似はしない。
「……彼女を一人にしてしまった。寂しい思いをさせてしまった。父も母も倒れていく中、もう二度とそんな思いはさせないと僕は誓った。そのはずなのに!」
シンはシュウゴの胸目掛けてまっすぐに拳を突き出した。
その拳に乗せているのは王としての責務ではない。
妹を守るための純粋な意志だ。
――バシッ!
シュウゴはその拳を受け止めた。
アンデットなだけあって純粋な膂力がある。
そして、無機質な隼の拳と死者の冷たい拳だというのに、熱気のようなものが生じていた。
「感服したよ。なにが王だ。立派な兄じゃないか!」
シュウゴが空いた側の拳で渾身のストレートを放つ。
しかしシンは機敏に飛び退いた。
「お互いさまだ」
シンは再び殴りかかる。
「妹のわがままくらい許してやれないのか!?」
シュウゴは連続で放たれるシンの拳を受け流し、カウンターを刻んでいく。
互いに満身創痍。
今の状態ではほぼ互角だった。
「ダメだ! 僕にしかアイリスは守れないっ!」
シンがペースを上げ、勢いのままに拳を打ち込む。
「過保護すぎるんだよ!」
シュウゴは一撃一撃を冷静にさばいていく。
「なんと言われようと、僕はアイリスの兄だ。たとえ嫌われようと、彼女を正しい道へ導く義務がある!!」
シンは、すべての想いを乗せた一撃を放つ。
シュウゴは両腕をクロスし全身全霊をもって受け止めた。
「……それが正しいかを決めるのは、あなたじゃない。彼女自身だ!」
「っ!!」
シンが目を見開き、一瞬の迷いが生まれた。
それを見逃すシュウゴではない。
「そっ、それでも僕は!」
がむしゃらに向かってくるシン。
しかし隙だらけだった。
「はぁっ!!」
気付いたときには、シュウゴの右ストレートがシンの頬に直撃し、その華奢な体を殴り飛ばしていた。





