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不死の王

「っ!? 誰だ!?」


 突然の声にシュウゴは身を強張らせる。

 声のした棺を見つめていると、ギギギギギと金属を引きずるような音を立て、棺の蓋が一人でに横へスライドし始めた。

 そしてその中から一人の青年が上半身を起こす。


「んな!?」


 シュウゴは目を見張る。

 その細身の青年は、肌が死人のように青白く、深紅の瞳に輝く銀髪で、横顔を見ただけでも恐ろしいほどに整った顔立ちをしていた。

 頭には金の王冠をかぶっており、髑髏の刺繍と白銀の装飾が施された灰色の法衣を身に纏っている。

 棺の中はおびただしいほどの暗黒のオーラが溢れ出て、心なしか周囲の気温も下がっているようだ。

 青年はゆっくりと立ち上がり、棺の前に出てメイを見下ろした。


「アイリス、本当に久しぶりだね。元気だったかい?」


 彼は全身から溢れ出る圧倒的な覇気とは裏腹に、柔らかい声と慈愛に満ちた眼差しをメイへ向けていた。

 シュウゴは状況が飲み込めず混乱していたが、その青年の雰囲気が記憶の中であるゲームの敵キャラと重なっていた。


(不死の王『リッチ』、だと……)


 リッチとは死を司る王で、生者を死者に変えたり、あらゆる魂を操る恐ろしい怪物だ。今までの経験上、クラスとしてはAか……へたしたらSになるだろう。

 シュウゴが緊張で冷や汗を流しながらメイを見ると、彼女は信じられないというように口元を両手で押さえ瞳を揺らしていた。


「……『シン』、お兄様……」


 その名を呟いたとき、メイの頬を一筋の涙がつたった。

 自分でも訳が分からないのか、「え? ど、どうしてっ」と見開いて涙を拭った自分の手を見つめる。


「メ、メイ!?」


 シュウゴが慌てて片膝をつき、メイの顔を覗き込んだ。

 もうどうすればいいか分からなかった。

 メイがあの青年の名を呼んだことも、突然涙を流したことも、そしてその青年にどう対応すればいいのかも見当がつかない。

 メイはハッとしたように、袖で目元を拭うとシュウゴに目を合わせた。


「突然申し訳ありません。でも思い出してしまったんです。温かい家族の記憶と、平和だったこの国のことを……」 


「えっ!? 記憶が戻ったの!?」


 シュウゴが驚嘆の声を上げメイの肩を掴むと、彼女は首を横へ振った。

 そしてシンと呼んだ青年に潤んだ瞳を向ける。


「少しだけです。あの人は血の繋がった兄、シンお兄様。誰からも信頼、尊敬され、臆病で引き籠りだった私にいつも優しく接してくれた人です。あのお姿を見た途端、懐かしい光景が脳裏に浮かびました」


 すると、シンもメイの視線を受け止め微笑んだ。


「まさか君と再び会えるだなんて、こんなに嬉しいことはないよ」


「シンお兄様」


 青年の名を呼んだときのメイの声は、どこか懐かしむようで柔らかかった。

 シンも家族へ向ける慈愛の眼差しを向けている。


(一体なにがどうなってるんだ)


 二人の雰囲気についていけず、所在なさげに立ちつくすシュウゴ。

 シンはそんなシュウゴへ目を向けた。


「くっ」


 その冷たい瞳にシュウゴは身構える。

それは怒りか妬みか、そんな雰囲気が感じ取れた。ただ、同時に感謝の念も混じっているかのような複雑な表情だ。


「君がシュウゴくんだね」


「なに? なぜ俺のことを?」


 シュウゴは警戒心を強めた。

 シンは「ふふっ」と余裕の笑みを浮かべる。まるでいたずらが成功したかのような薄い笑いだ。


「なに、霊体たちを操っていたのは僕だからね」


 シンが左手を挙げると、一体どこから現れたのか霊体と半身の骸骨が彼の周囲に集まって来る。


「バカな!? これだけの数を一人で操ってたっていうのか!?」


 驚愕に叫ぶシュウゴだったが納得もしていた。彼が本当にリッチなのだとしたら、それぐらいのことは造作もないはずだ。

 決して敵に回してはいけないと、脳が警鐘を鳴らす。


「この数日、カムラでアイリスの周囲に密着して、ある程度の情報は得ているよ。まずは兄として礼を言わせてほしい。我が妹を助けてくれて、守ってくれてありがとう」


 シンは真剣な表情で頭を下げた。

その雰囲気に嘘偽りがあるようには思えなかった。

 しかしシュウゴとしては、得体の知れない相手の感謝など、不気味すぎて素直に受け取れない。


「ま、待ってくれ。あんたは一体何者なんだ?」


「そうだね……どうやらアイリスも記憶を失っているようだし話すとしようか、僕らに起こった悲劇を――」


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