敵の導き
――歩いていたのは『ミイラ』だった。
全身を黄ばんだ包帯で包み、隙間から覗く肌は赤黒く変色している。目的もなく小刻みに震えながら歩き、そこら中を徘徊していた。
「ひ、人なのですか……」
「ああ、たぶん凶霧の被害者だ」
シュウゴは表情を引き締め、一番近い個体を捉えると、腰のバーニアに魔力を溜め始めた。
「メイはここで待ってて」
「はい」
メイは一歩下がる。
シュウゴは大剣を肩に乗せ腰を落とし、バーニアを噴射した。
しかし――
「なっ!?」
突撃する寸前で、シュウゴが驚愕の表情を浮かべ膝を地に落とした。
突如、全身を脱力感が襲ったのだ。
「上です!」
「……こいつら、いつの間に……」
シュウゴが顔を上げると、無数の霊体が上空を飛び交っていた。
今のは、霊体による魔力吸収だったのだ。
シュウゴはバーニアに火を灯そうとするが、大して燃えず魔力が完全に枯渇している。
「まだ来ます!」
メイが叫ぶ。
彼らの後方からは、カタカタと不気味に揺れる骸骨が歩いてきていた。五体満足のタイプだ。人だけでなく、動物のものまでいる。
前方にはミイラの群れ、上空には高速で飛び回る霊体、後方からは屈強な骸骨。
逃げ場はどこにもない。
それならば、とシュウゴは大剣を握りしめ、ミイラたちへ目を向けた。
「ーーなに?」
「お、お兄様、これは……」
二人は困惑の声を上げる。
橋の下のミイラたちが脇に移動し、道を開けていたのだ。
まるで、シュウゴたちを通すかのように。
(一体なんなんだ……)
敵の意図が欠片も分からず、周囲を見回すシュウゴ。
そのとき、メイが急に額を押さえ、苦しそうに後ずさった。
「メイ? どうした!?」
「こ、この先です。誰かが、私を待って……」
メイは苦しそうに言いながら、ミイラたちの作った道を指さす。かろうじて城の輪郭が見える。
「行くしかないのか」
シュウゴはメイの肩に腕を回し、体を支えながらミイラの開けた道へと歩き始めた。
しばらく歩き、豪邸にあるような鋼鉄の柵を抜けると、広大な墓地に辿り着いた。
ゆっくりとした歩みだったが、骸骨もミイラも霊体も一度として襲ってこなかった。
「お墓、ですね」
「ああ、でも普通じゃない」
その墓地は、どこか不思議な雰囲気が漂っていた。
他の場所に比べ霧は薄く、そこら中に棺桶や墓石が置かれているが、地面には骨などは散乱していない。まるで、誰かが管理しているかのようだ。
ここからなら、遠くに見えるのが城だとはっきり分かる。
「っ!?」
「メイ?」
再びメイが苦しみ出し、ある場所へ目を向けた。
その視線の先、墓地の最奥には盛り上がった大地の上に、装飾の施された大きな棺桶が置いてあった。
次の瞬間、周囲の空間で青い火が一斉に点き始める。
「な、なんだ!?」
青い火の玉は、ゆらゆらと宙をさまようと、中央を空け縦二列に並び、墓地の最奥へと道を作る。
まるで、玉座へ続く絨毯を敷くかのように。
シュウゴがその光景に唖然としていると、最奥の棺から優しげな青年の声が響いた。
「――待ちわびたよ、アイリス――」





