失踪
「――うぅ、頭がぁ……」
ある日の夜、シュウゴは額を押さえ、青い顔になりながら自宅を目指していた。その足取りはフラフラで頼りない。
幸い道は灯りに照らされているため、酔っていても迷子にはならなそうだ。
シュウゴはつい先ほどまで、酒場で飲んでいた。アンに誘われて行ってみると、リンとハナもいて、思いのほか話が弾んだのだ。アンの酒豪ぶりは相変わらずで、シュウゴは思いのほか飲まされた。シュウゴ自身も楽しかったので、文句はないが……
アンは、ハナのことを姉さんと呼び慕っている。年はほとんど変わらないはずだが、ハナの戦いぶりを見て、その強さと美しさに惚れ込んだのだと、リンが語っていた。
しばらく歩いて気分が落ち着いてきた頃、シュウゴはようやく自宅付近まで辿りついた。
もう深夜だ。メイもニアも起きてはいまい。シュウゴがそう思って家に入ると――
「……メイ?」
メイの姿がなかった。
ニアは灰色の毛布にくるまって小さな寝息を立てており、デュラは膝を立て微動だにしていない。メイだけが姿を消していた。
一度外に出て辺りを見回してみるが、どこにも姿はない。
一瞬、霧のような半透明な気体が目の前をうっすらと漂ったが、すぐに消えた。まるで幽霊のように。
「っ!」
胸騒ぎのしたシュウゴは、慌ててデュラとニアを起こし事情を聞く。
「――メイ~? 一緒に寝たはずだけど~」
ニアは寝惚けた様子で目をこすり、間延びした声を上げる。まだあまり状況を飲み込めていないようだ。
デュラも、首を傾げるだけで深刻な様子はうかがえない。おそらく彼は、メイが出たことに気付いていたはずだが、すぐ戻って来ると思って気にも留めなかったのだろう。
シュウゴは難しい表情で呟く。
「一体どこに行ったんだ……」
「どこかに行きたいとかは、聞いてないねぇ」
ニアもう~んと難しい顔で唸る。
すぐに戻ってくればいいが、シュウゴの胸騒ぎは収まらない。
「探しに行くか」
デュラとニアは頷き、支度を始める。
そのときには、シュウゴの酔いはすっかり覚めていた。
「――なんだ?」
シュウゴたちが住宅街から広場まで探しながら移動すると、次第に人通りが多くなっていく。
明らかにおかしい。いくら灯りがあるからと言っても、こんな時間に人が出歩くなど稀のはず。
シュウゴは、慌てた様子で駆けていく男の一人に声を掛けた。
「すみません、なにかあったんですか?」
「へ? あ、あんたは設計士の……」
男はシュウゴの顔を見ると、足を止め事情を話した。
「――幽霊船?」
「そうなんだよ。討伐隊が来て、みんな避難しろってお達しだ。俺は見ちゃいないが、船の中からバケモノが降りてくるのを見たって奴もいるぞ」
「なんですって……」
シュウゴの背筋に激しい悪寒が走る。もう次の襲撃が来たのかと。以前の触手とは違うのかもしれないが、カムラが再びピンチに陥っているのは間違いない。
シュウゴが礼を言うと、男は足早に去って行った。
「デュラ、ニア、メイを探すのは後だ。もしかしたら、以前の魔物襲撃みたいに、カムラが窮地に陥るかもしれない。デュラは俺と港へ。ニアは、隼の装備を取りに家へ飛んでくれないか?」
シュウゴが指示すると、ニアは灰色の竜翼を広げ、風を切って飛び立った。
シュウゴはデュラと先行して港へ向かう。





